「自分でいうのもなんですが、僕はかなり恋愛をこじらせていまして、結局恋愛らしい恋愛もしないままに、この歳になってしまいました」
面談に来た伊藤泰典(46歳)は、椅子に腰をかけるなり、こういった。
“恋愛をこじらせる”とは、一時期よく使われていた言葉だ。一般的な価値観と自意識の間に折り合いがつかず恋愛につまずく女性を、今は亡きライターの雨宮まみさんが“こじらせ女子”と表現したのが始まり。そこから様々な意味が派生して、うまく恋愛ができずに、もつれた恋愛ばかりしていることを“恋愛をこじらせる”と言うようになった。
アニメと女子で、アニメを取ってしまった
泰典は、身長167センチ、筋トレで鍛えているという胸板は厚く、サイドを短く刈り込んだ髪型はスポーツマンの風貌。年齢よりもずっと若く見え、笑顔がみょうに人なつっこかった。清潔感もあり、女性から敬遠されるような見た目ではけっしてない。現在は埼玉の実家で、親の跡を継ぎ果物農園を経営している。
「今はそうでもないんですけど、昔は強烈なアニオタ(アニメオタク)だったんですよ」
恋愛をこじらせる原因のひとつは、ここにあったという。明るくがっしりとした体つきの泰典から、アニオタという言葉が飛び出してきたのが、ちょっと意外だった。
「昔からアニメが大好きで、ビデオも欲しいしグッズも欲しい。小中学校のころは、お小遣いをみんなアニメにつぎ込んでいました。中学くらいになると、周りは異性に興味を持つようになるけど、僕はアニメと女子、どっちをとるかといったら、アニメを取ってしまったんです」
高校は地元の男子校に進学した。女子のいない環境の中で、さらにアニメ熱は高まっていった。
高校卒業後は東京6大学のひとつに進学した。都会のキャンパスには華やかな女性も大勢いたのだが、生身の女性とどう向き合っていいのかわからず、大学4年間も、ひたすらアニメの世界に自分の身を置いた。またアニメだけでなく、ゲームも大好きで、ファミコンのソフトにもお金をつぎ込んだ。大学時代は、ゲーセンにも入り浸るようになり、結局女性と一度もつきあわないままに、大学を卒業することになった。
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