安易な「せんべろの酒」が日本酒をダメにした

獺祭がフランス進出で大事にする「価値観」

そのために、私はフランスやニューヨークなど現地に足を運び、獺祭の価値観を伝えることに注力しています。たとえば、フランスの料理学校で飲食関係の業者を相手に説明会を開いたりしているのも、その一環です。

新しい市場を開拓するとき、多くのメーカーは相手の市場や価値観に合わせようとします。最初は物珍しさから売れるかもしれませんが、自分たちが拠って立つ文化を大事にしないブランドは存在感を失っていくばかりです。

「日本酒離れ」は真っ赤なウソ

2016年、さまざまな一流ブランドが集まる東京・銀座に、直売店である「獺祭ストア銀座」をオープンしたのも、「酒のブランド価値を上げる」ことが狙いのひとつです。

店舗の設計は新国立競技場を担当する隈研吾氏。獺祭の定番の商品を販売するほか、定期的にセミナーも行っています。社長や前工場長などが講師となり、「獺祭とはどんな酒か」「海外での獺祭シーン」などのテーマで、獺祭をより深く理解してもらう試みをしています。

これまで日本酒は、ひたすらチープさを求めてきました。あまり良い言葉ではありませんが、「せんべろ」といって、1000円でべろべろに酔っぱらえる酒場には日本酒が似合うというイメージがありました。それも日本酒の特徴や文化のひとつとも言えますが、ブランド価値という面では、ワインやシャンパンなどほかのアルコール飲料との差は開くばかりです。

「せんべろ」の酒のイメージだけでは、これからの日本酒の未来は明るくありません。それは、市場が3分の1に縮小した歴史を見ればあきらかです。

品質が低く、価格の安い酒を浴びるように飲み、翌日二日酔いで体調を崩す。仕事もはかどらないし、「あんなに飲まなければよかった」と後悔の念にさいなまれる。ここにお客様の幸せはあるでしょうか。私には、あるとは思えません。

「お客様においしい酒をお届けする」。そこにしか、日本酒のブランドを向上させる要因はありません。おいしい酒を飲んで幸せな気持ちになってもらう。そうしたら、お客様は「また獺祭を買おう」という気持ちになってくれます。そういうお客様が増えれば、売り上げも上がり、社員の給料も増えて、優秀な人材を雇うことができる。そうした状況をつくることは、当然、酒の品質にも影響します。

当たり前のことかもしれませんが、こうした循環のサイクルをまわすことができないと、世界はおろか、日本市場でも勝負できないと思っています。ところが、酒造業界ではまったく逆のことが行われています。業界の人と話していると、「最近の若者や女性は日本酒を飲まない」という半ばあきらめの声を聞くことがあります。

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