安易な「せんべろの酒」が日本酒をダメにした 獺祭がフランス進出で大事にする「価値観」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかし、「若者や女性の日本酒離れが進んでいる」というのは真っ赤なウソ。あたかも「客が悪い」という言い方をする人もいますが、実際に若者や女性を日本酒から遠ざけているのは、酒造メーカーや酒造業界のほうです。

酒造業界の皮肉

たとえば、酒造業界を盛り上げるために、全国の酒造組合などが主導して「乾杯条例」を推進しています。「最初の乾杯は日本酒で行う」という趣旨の条例です。販促を目的にした酒造組合絡みのイベントや会合でも、乾杯条例にもとづき、地元の日本酒が用意されますが、これが逆に若者や女性の日本酒離れを加速させている面もあるのです。

会場に用意される酒の種類は酒造組合の力関係で決まり、たいていは売れずに在庫となった酒が運び込まれます。しかも、必要な温度管理もされず、紙コップやチープなぐい吞みに酒が注がれる。これを飲んだ若者は、どう思うでしょうか。

「やはり日本酒はおいしくない……」。若者や女性を日本酒嫌いにさせているのは、日本酒を売ろうと努力している酒造業界なのです。これほど皮肉な話はありません。

『勝ち続ける「仕組み」をつくる 獺祭の口ぐせ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

しかし、当の本人たちは、その矛盾に気づいていません。日本酒の販促イベントやキャンペーンをしたあとの打ち上げで、「とりあえずビール」「私は酎ハイで」「ワインで」と日本酒以外の酒を注文し、「日本酒の将来はどうなるんだろう」と頭を抱えている……。自分たちが飲みたいと思うような酒をつくっていないのに、お客様には飲んでもらおうと、一生懸命に販促をする。笑い話のようですが、このようなことが全国で起きていました。売れる酒を本気でつくりたいと思ったら、日本酒以外に興味は向かないはずです。

お客様にとって幸せとは何か? どんな商品を提供すれば目の前にいるお客様に笑顔になってもらえるか? そのために私たちに何ができるか? それをひたすら考えなければ、日本酒のブランド価値を高めることはできないと思っています。

(構成:高橋一喜)

桜井 博志 旭酒造会長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

さくらい ひろし

1950年、山口県周東町(現岩国市)生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代の1770年創業。松山商科大学(現松山大学)卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て、76年に旭酒造に入社するも、酒造りの方向性や経営をめぐって父と対立して退社。一時、石材卸業会社を設立し、年商2億円まで育成したが、父の急逝を受けて84年に家業に戻る。研究を重ねて純米大吟醸「獺祭」を開発、業界でも珍しい四季醸造や12階建ての本蔵ビル建設など、「うまい酒」造りの仕組み化を進めている。2017年にはパリに世界的な料理人であるジョエル・ロブション氏と共同で獺祭が飲めるレストラン、バー、ショップやカフェなどからなる複合店舗「ダッサイ・パー・ジョエルロブション」を開店予定。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事