安易な「せんべろの酒」が日本酒をダメにした 獺祭がフランス進出で大事にする「価値観」
しかし、「若者や女性の日本酒離れが進んでいる」というのは真っ赤なウソ。あたかも「客が悪い」という言い方をする人もいますが、実際に若者や女性を日本酒から遠ざけているのは、酒造メーカーや酒造業界のほうです。
酒造業界の皮肉
たとえば、酒造業界を盛り上げるために、全国の酒造組合などが主導して「乾杯条例」を推進しています。「最初の乾杯は日本酒で行う」という趣旨の条例です。販促を目的にした酒造組合絡みのイベントや会合でも、乾杯条例にもとづき、地元の日本酒が用意されますが、これが逆に若者や女性の日本酒離れを加速させている面もあるのです。
会場に用意される酒の種類は酒造組合の力関係で決まり、たいていは売れずに在庫となった酒が運び込まれます。しかも、必要な温度管理もされず、紙コップやチープなぐい吞みに酒が注がれる。これを飲んだ若者は、どう思うでしょうか。
「やはり日本酒はおいしくない……」。若者や女性を日本酒嫌いにさせているのは、日本酒を売ろうと努力している酒造業界なのです。これほど皮肉な話はありません。
しかし、当の本人たちは、その矛盾に気づいていません。日本酒の販促イベントやキャンペーンをしたあとの打ち上げで、「とりあえずビール」「私は酎ハイで」「ワインで」と日本酒以外の酒を注文し、「日本酒の将来はどうなるんだろう」と頭を抱えている……。自分たちが飲みたいと思うような酒をつくっていないのに、お客様には飲んでもらおうと、一生懸命に販促をする。笑い話のようですが、このようなことが全国で起きていました。売れる酒を本気でつくりたいと思ったら、日本酒以外に興味は向かないはずです。
お客様にとって幸せとは何か? どんな商品を提供すれば目の前にいるお客様に笑顔になってもらえるか? そのために私たちに何ができるか? それをひたすら考えなければ、日本酒のブランド価値を高めることはできないと思っています。
(構成:高橋一喜)
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