安易な「せんべろの酒」が日本酒をダメにした 獺祭がフランス進出で大事にする「価値観」
かどのある日本酒をつくるのは簡単です。手を抜けばいいのですから。しかし、「飲みやすくキレイ、しかしその奥に深みがある」というのは、ワインとは異なる獺祭の個性です。あえてうまくない酒をつくっていたら、一時的に受け入れられることはあっても、早晩、パリで居場所を失う結果となるでしょう。
そういう意味でも、フレンチの巨匠・ロブション氏の言葉は、獺祭にとって大きな価値があります。1~2年後、フランス人の日本酒に対する価値観が変わっているかもしれません。フランス人が「獺祭はフレンチにも合う」と言いながら食事を楽しむ。そんな想像をするだけでワクワクしてきます。
「獺祭らしさ」で勝負する
そもそも外国人の嗜好に獺祭の味を合わせようと思っても、そんな簡単ではありません。にわか勉強で海外の研究をしても、その思考は浅いものにすぎません。
反対に外国人のワインメーカーに「日本人の嗜好に合わせたワインです」と言われても、多くの日本人はピンと来ないのではないでしょうか。「日本人の何を知ってるんだ」と批判的にとらえる人もいるでしょう。「本場のワインを飲みたい」というのが、日本人の本当のニーズだと思います。
海外で販売する日本酒も同じで、日本らしさ、獺祭らしさがないと、一時的に注目されることはあっても、ブランドとして定着することはありません。
東京で飲む獺祭も、山口県で飲む獺祭も同じ味を楽しめる。そして、ニューヨークやパリでも同じ味の獺祭が飲める。これが、私たちの目指している理想です。だから、私たちはヨーロッパ市場に合わせた獺祭やアメリカ人の味覚に合わせた獺祭をつくるつもりはありません。それは、お客様が求めているものではないからです。
日本人のフェラーリ愛好家がフェラーリを購入するのは、本場と同じフェラーリだからです。日本は狭い道や渋滞が多いからといって、日本市場向けに渋滞仕様のフェラーリをつくったところで、ほとんどの愛好家は買わないでしょう。日本の道路ではフェラーリの性能を十分に発揮できないとしても、愛好家は「フェラーリであること」に価値を置いているのです。
だからこそ、獺祭の価値観を海外のお客様に伝えることも、私たちの大事な仕事です。日本酒とはどんな酒なのか。どんな歴史や文化があり、獺祭にはどんな魅力があるのか。獺祭とともに、私たちの価値観を伝えていく。獺祭や日本酒に対する理解者が増えることで初めて、本当の意味で日本酒が海外でも受け入れられていくと信じています。
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