iPhoneが「世界のすべて」を変えられたワケ 10年前は「電話できるiPod」と認識されたが…

拡大
縮小

革新的なインターフェースとは、マルチタッチディスプレーのことだ。当時のスマートフォンの代名詞はフルキーボードが搭載されていたBlackBerryだったが、ジョブズ氏は「アプリケーションによって切り替えることができない」点で、使いにくいと切り捨て、またスタイラスは誰が欲しいのか?と、複数の指での操作に特化したタッチスクリーンを提案した。

2007年9月に米国で利用した地図アプリ(筆者撮影)

筆者は2007年9月、日本ではまだ発売されていなかったiPhoneを使いに、米国・ニューヨークへ行った。そこでiPhoneが今からすれば氷河のように遅いモバイル通信の電波を拾ったが、最も感動したのは地図アプリだった。

検索ができる。2本の指で拡大縮小を行うことができる。これだけで、iPhoneのユーザーインターフェースの高い価値を思い知らされた。

紙の本の場合、店の名前から地図の地点を見つけるには索引を使わなければならなかった。また拡大図がすべての地図に用意されているわけではない。そして、自分がどこにいるのかを点で示してくれるわけでもない。旅行者として地図を見るとき、紙の地図のあらゆる面を凌駕していたのが、iPhoneの地図だったことを、強烈に覚えている。その使いやすさを作り出していたのが、ユーザーインターフェースであった。

iPhoneの進化のカギは「ソフトウエア」

次に、「デスクトップクラス」について見てみよう。iPhoneに搭載されるソフトウエア(iOSのこと、当時はiPhone OS)が、Mac向けのOSである「Mac OS X」(現在のmacOS)で動作すると発表した際のフレーズだ。当時の携帯電話やスマートフォンのソフトウエアと比較し、パソコンやサーバーで動作するものと同じソフトウエアでスマートフォンが動くという優位性を強調する言葉だ。

この言葉は、昨今のiPhoneが発表される際にも使われる。アップルはiPhone 4に搭載したA4から、独自設計のプロセッサーをiPhoneに搭載し始めているが、iPhone 5sでスマートフォンとして初めて64ビットプロセッサーを採用した際に、「デスクトップクラス」という言葉を再び使っている。

また、2つ目のキーワードは、米国でパーソナルコンピュータの父とも言われ、アップルのフェローも務めたアラン・ケイ氏の言葉の引用で、「ソフトウエアに対して本当に真剣な人は、独自のハードウエアを作るべきだ」というものだ。

アップルはこのことを実直に実践しており、iPhone、iPad、Apple Watch、Apple TVといった、OSとアプリが活躍するためのデバイスを自ら作り続けている。

この3つのキーワードから考えられるiPhoneの未来は、引き続き、ユーザーインターフェースを改革しながら、ソフトウエアとアプリ主導によるハードウエアの発展という道筋が続いていく、ということだ。

新しいiPhone向けのOSにどんな機能が含まれているかは、どんなアプリが利用できるようになるのかを想起させると同時に、将来アップルがどんなデバイスを作り、それらが生活の中に入り込んでくるのかを予測するのに役立つ。

ちなみに、秋にリリースされる予定のiOS 11には、機械学習や拡張現実、そしてVRも扱うことができるグラフィックスエンジンMetal 2が備わっており、2011年からiPhoneに搭載されているSiriが進化する。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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