テレビが生き残るカギは「ネット連動」にある 退潮続くテレビはどこを目指すべきなのか

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視聴率が下がり続けてもテレビ広告費が現状レベルを維持できると仮定したとして、これが2020年にどうなるのか。毎年2月に発表される電通の「日本の広告費」から予測したのがこのグラフです(図5)。

(図5)4マスとインターネットの広告費推移と予測(単位:億円)

過去11年間、テレビ・新聞・雑誌・ ラジオのいわゆる4マス広告費は05年のピーク時を下回ったままですが、インターネット広告費は2ケタ増を続けています。過去3年間と同じペースで増加すると、20年には地上波テレビ広告費を逆転することになります。

根拠はほかにもあります。矢野経済研究所は、20年度のインターネット広告の国内市場規模を1兆8500億円と予測しています。電通のデータは暦年、同研究所は年度で、調査方法が異なるのであくまで目安ではありますが、やはり20年あたりで地上波テレビ広告費を逆転する可能性は低くはないでしょう。

テレビ局の未来は悲観的なのか

ではテレビ局の未来は悲観的なのかというとそうではありません。テレビ局の収入にはこの急上昇を続けるインターネット広告費も含まれるのです。今年3月、大手の広告主がユーチューブから広告を続々と引き揚げたことが話題になりました。社会的に問題がある動画に、一流企業の広告が掲載される事例が発覚したからです。広告主が問題のある動画をあたかも推奨しているかのごとく映ってしまうのを嫌ったのです。

広告媒体としてのネット動画の品質に今、疑問が投げかけられているとするなら、ここにチャンスがありそうです。テレビ局が自社のプラットフォームで提供する動画には、エロもグロもヘイトもテロ支援もありません。つまり広告主は安心して出稿できます。20年に向けて拡大するネット広告費を、テレビ局がぶん獲ればよいのです。

ネット連動企画のチャレンジと、今回は触れませんでしたが視聴率以外の視聴データ開発によるテレビ放送の価値を向上する努力、それにテレビ番組配信でのネット広告収入の拡大は、今後のテレビ局にとって決定的に重要です。ただし、その道は容易ではありません。過去の経験則は役に立ちません。テレビ局が生き残るには、放送局としてではなく、ユーザーの心理を理解しさまざまなデータを駆使する「ネット企業」として進化する道しかないのです。それを覚悟すべきときがもう目の前に来ています。

氏家 夏彦 メディア・コンサルタント

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うじいえ なつひこ / Natsuhiko Ujiie

TBSで報道、バラエティ、情報番組の制作、デジタル部門責任者、経営企画局長、コンテンツ事業局長。TBSメディア総合研究所社長、TBSトライメディア社長、TBSディグネット社長を歴任後、2017年7月に独立。『GALAC』編集委員。

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