東電が巨額赤字 原油高直撃の電力ガス業界
原油価格の高騰で、電力・ガス業界がかつてない異常事態に追い込まれた。
「たいへんつらいところだが、創業以来最大の赤字が見込まれる」。7月28日の第1四半期決算の席上、東京電力の清水正孝社長は苦渋の面持ちで語った。同社は新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が停止中のため、今期の業績見通しを「未定」としていた。
今回、公表した通期見通しは経常損失が4250億円と巨額。想定を超す原油の急騰と、柏崎原発の休止を火力発電で代替し燃料費が大きく膨らむためだ。同じ日、業界2位の関西電力も通期の経常損益が820億円の赤字(従来予想は1150億円の黒字)になると発表。ほかにも、東北電力、中国電力、中部電力と、相次ぎ通期で赤字に陥る見通しを出している。
さらに、原油価格に連動するLNG価格高騰を受け、東京ガスも通期予想を赤字に下方修正した。大阪ガスは黒字を確保する見通しだが、大幅な下方修正を行っている。各社とも当初1バレル90ドル台で見ていた原油価格を、わずか3カ月で120ドル台へ見直さざるをえなくなった。
燃調を最大限利用へ
電気・ガス料金改定は国の認可が必要(据え置き、値下げを除く)だが、燃料価格の上下動に応じて料金を調整する制度が認められている。電力会社の燃料費調整制度(燃調)の場合、一定時点における原油、LNG、石炭価格から基準燃料価格を設定。以後、四半期ごとの平均燃料価格と比べ、価格が変動した場合には、その分を料金に反映することができる。
ただ、足元の燃料価格上昇を料金に反映するのは半年先。このため現状は、燃料価格の上昇があまりに急で、料金値上げが追いついていない状況だ。東電の赤字額が突出するのは、想定外の原発停止によって燃調で補完されない燃料費負担が重しになっているとの特殊事情がある。
燃調では需要家の負担を考慮し、基準燃料価格の1・5倍までしか値上げが認められていない。各社とも平均燃料価格がその上限に接近し、悩みの種だった。これを受け、電力8社は国へ料金見直しを届け出、9月から料金改定を実施する。各社ともコスト削減を織り込み、基本的な料金の値上げを行わない代わり、基準燃料価格を引き上げて値上げ余地を広げる方策をとる。
東電は9月の料金改定後、年末までは従来の料金水準を据え置く考えだ。だが、原油価格が現状の1バレル130ドルで推移すると、燃調による来年1~3月分の料金調整は月800円の値上げになるという(月額料金が6797円の標準家庭の場合)。同社は昨年後半から燃調に基づく値上げを続けており、直近の7~9月分は月に137円(同)の値上げを実施している。
今回の料金改定において、東電は柏崎原発を供給力に含めない形で料金算定の基礎となる原価構成の見直しを行った。このため一部が“枠外”だった火力発電の燃料費高騰分が燃調で補完できるようになる。東電にとって経営の自由度はある意味で高まる。
ただ、火力に依存する高コスト体質のシワ寄せを最終的に受けるのは利用者。柏崎原発停止が長期化し、平均燃料価格が改定後の上限水準(標準家庭で料金引き上げ余地は残り400円程度)に達したとき、はたして再び料金改定に踏み切れるものなのか。
今後、燃料価格の上昇を受けて自動的に料金値上げができる燃調そのものにも、需要家から風当たりが強まる可能性がある。電気料金の大幅な値上げは企業業績だけでなく、家計への影響も大きい。日本経済全体にとっての問題だ。「業績」と「公益」のバランスの間で、東電に限らず電力・ガス各社は難しい舵取りを今後迫られる。
(井下健悟 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
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