犠牲伴う事故を自動運転車はどう判断するか 国民性によってもその考え方は違ってくる
──自動運転のアルゴリズムも刑法にしたがって功利主義を当てはめるべきなのでしょうか。
今井:国民性にもよると思います。5人死亡、1人死亡、自爆して他者を死なせない、という3つの選択肢があるとします。いわゆるトロッコ問題には自爆のパターンはありませんけど。日本人の多くは他者を死なせないアルゴリズムを希望するのではないでしょうか。いっぽうでアメリカ人の多くは自分が高い金を出して買ったクルマが自爆を選んで自分が死ぬのは納得できない。1人をはねるパターンを選ぶようプログラミングしてほしいと考えるそうです。
トロッコ問題パターン2(自分が死ぬのを避けた場合)
──ではこういう場合はどうでしょうか? 走行中、行く先で道路が陥没しているのがわかった。けれど今すぐブレーキを踏んでも落下を回避できない。ただしその手前に分岐があり、そちらへステアリングを切れば自らの落下を免れるが、その代わり路上にいる歩行者をはねてしまうことになる。
今井:この場合、クルマに何人乗っていたかが重要です。2人以上が 乗っていたならば、功利主義の観点から1人をはねて死なせてしまっても、車内の2人以上が生き残ったので違法ではないということになります。違法だがやむを得ないので罰せられないという考え方もありますが、いずれにせよ、2人以上乗っていれば罪を問われないのです。反対に1人がクルマに乗っていて、分かれた先の路上に2人以上いたとします。この場合、自分1人が死ぬのを避けるために路上の2人以上を死なせることになるため、罪に問われます。では1人と1人だとどうか。この場合も罪に問われません。刑法は生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しないのです。
──人間の場合、車内にいる人数と、必死でステアリングを切った先にいる人数のどちらが多いかを瞬時に認知するのは難しいケースがほとんどでしょうが、AIと高性能なカメラ、レーダーがあれば可能ですね。
今井:アメリカには、行く先に2台の駐車車両があって、1台はメルセ デス・ベンツでもう1台がコンパクトカーとし、どちらかに衝突せざるを得ない場合、コンパクトカーを選ぶという、いわば利己的なアルゴリズムを書くべきだという意見があります。コンパクトカーとの衝突のほうが衝撃が少なくこちらの生存率が上がるからという理由と、コンパクトカーのほうが賠償費用が低いという理由からです。さらに衝突を避けられないのが両方メルセデス・ベンツEクラスだった場合、より賠償額が低い古い年式のほうを選ぶようなことも、AIなら可能でしょう。究極は一方が子ども、一方がお年寄りの場合、どちらかをはねざるを得ないとしたら、将来ある子どもを避けてお年寄りをはねるアルゴリズムを書くことも可能です。可能ですが、そうすべきかどうかについては日本でも欧米でも結論は出ていません。もっと議論を深めて何らかの国民的なコンセンサスを得ることが必要ではないでしょうか。
今井猛嘉(いまい・たけよし)
法政大学法科大学院教授、弁護士。「自動走行の制度的課題等に関する調査検討委員会」(警察庁)、 「平成28年度スマートモビリティシステム研究開発・実証事業(自動走行の 民事上の責任及び社会受容性に関する研究)」(経済産業省)、 「事業用自動車事故調査委員会」(国土交通省)において委員を務める。
(Interview:Satoshi Shiomi)
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