「仮面夫婦」を10年続けた人の苦悩と活路 離婚してわかった「失敗の原因」と「幸福」

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いわゆる「できちゃった婚」でも夫婦と子どもが幸せに過ごせるのであれば良い。しかし、この2人は入籍の時点からギクシャクした。前妻は裕福な家の長女であり、直人さんには婿養子になってもらうことを希望した。直人さんが難色を示していたところ、前妻の妹の夫が婿に入ることが決まった。直人さんたちはお役御免となったが、実家を継ぎたかった前妻としては不満が残ったかもしれない。

子どもが生まれてからは「夫婦」というよりも「子どもの父母」になった。2人だけでデートすることはなく、セックスからも遠のいた。それでも2人目の子どもができた。

「愛し合う関係ではなかったけれど、子づくりの相性だけは良かったのだと思います。1年ぶりに一緒に寝たら、一発でできてしまいました」

家族4人では賃貸マンション暮らしは手狭に感じ、直人さんの実家が保有する土地に一軒家を建てることにした。その際、直人さんと前妻の価値観の違いがあらわになる。

「田舎なので広い家です。でも、前の嫁は階段の下をすべて収納スペースにしたいなんて言うんです。その施工にいくらかかると思っているのでしょうか。まったく意見が合わず、ケンカばかりしていました。家を建てることって、普通はもっと盛り上がるはずなのに……」

直人さんはそれでも家族は続くと思っていた。仲が良くない夫婦は世の中にたくさんいるからだ。しかし、前妻は子どもたちを連れて実家に帰ってしまう。どうやら恋人もいたようだ。

「僕といるよりも実家に帰ったほうが楽だと判断したのでしょう。週末にはうちに来て、子どもたちを僕に預けて遊びに行っていました。週末ぐらいは彼氏と一緒にいたかったのだと思います」

週末婚のような別居生活

当然ながら離婚の話も出た。しかし、お互いが親権を譲らない。前妻からは「長女は私が引き取り、長男はあなたに」と提案されたが、直人さんはきょうだいを引き裂くようなことは絶対したくない。こちらにも実家はある。「2人とも置いていくならばすぐにでも離婚する」と主張した。結局、週末婚のような別居生活が続くことになった。

不器用だけど寂しがりの直人さん。幼い子どもたちと会えるのは週末だけ。田舎の広い一軒家での1人暮らしには慣れることができなかった。

「周りは畑だけ。真っ暗です。冬は、帰宅すると家中がキーンと冷えていてね。キツイものがあります」

そんな直人さんを支えてくれたのは友達だった。飲みに誘ってもらったり、独身の女性を紹介してもらったり。ただし、地元の人脈ではまだ離婚は成立していないことが知られてしまい、恋人はつくりにくい。直人さんが利用したのはいわゆる出会い系サイトだった。

倫理的には、離婚してから婚活をするべきだろう。しかし、そのためには子どもを前妻に渡さなければならない。直人さんは1人になる勇気はなかった。せめて恋人ができれば、気持ちが変化して前に進めるかもしれない――。決して褒められる行為ではないが、責めることもできないと思う。

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