中国金融システム脅かす「幽霊担保」の実態 不良債権比率は15-21%に上るとの指摘も

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縮小

中国の金融機関は、貸出しを大幅に拡大してきた。同国の中央銀行統計によると、2009年末に5兆8000億ドルだった融資残高は、4月末には17兆2000億ドルに膨らんだ。国際決済銀行は昨年9月、中国における融資の過剰な拡大によって、今後3年で銀行危機が起きる可能性が高まっていると警告した。

逃れられないリスク

格付け会社フィッチ・レーティングスが昨年発表した報告書では、中国の不良債権を一掃するには2.1兆ドルが必要だと試算している。これは、同国GDPの約5分の1に相当する。一方、世界金融危機時の米国では、直接的な銀行救済コストはGDPの約8%だった。

中国には金融危機を回避する手段があると、一部のエコノミストや銀行関係者は指摘。銀行に資金を供給するための潤沢な資金を、当局が備えているからだ。また、銀行や借り手である多くの大企業が国有であることから、中国政府は、危機をもたらしかねないデフォルトや差し押さえを回避させることが可能だという。

とはいえ、中国の金融システムが政府による救済期待に守られているという事実は、他国の銀行にあるような貸出リスクを判断するための評価手段が遅れているということを意味する。中国の銀行が借り手の信用を評価する上で物的担保が非常に重要なのはそのためだ。

中国銀行業監督管理委員会(CBRC)はロイターの質問に回答しなかった。

外資系銀行大手も不正担保リスクの影響を受ける恐れがある。

有名なケースでは、英国のHSBC<HSBA.L> <0005.HK>やスタンダード・チャータード(スタンチャート)<STAN.L> <2888.HK>などを含む大手銀が2014年6月、山東省青島市にある金属商社「徳誠鉱業」に対する融資で計数十億ドルの損失リスクにさらされた。同社は、同じ金属在庫を担保として用い、融資を複数回受けていた。

HSBCの広報担当者はこうした説明に異議を唱え、そのような実質的リスクにさらされたことはないと述べ、それ以上は語らなかった。一方、スタンチャートはこの件についてコメントを差し控えた。徳誠鉱業からもコメントは得られなかった。

担保を実際に調査する際、銀行や弁護士を欺くのは難しいことではない。倉庫には鋼鉄や銅が大量に保管されていることが多く、担保を審査する未熟な担当者が見分けるのを困難にしている。

「鉄鉱石の山は、他の鉄鉱石の山と全く同じに見える」と、調査会社クロールのバイオレット・ホー氏は語った。

中国の不動産セクターにおける担保価値とその質の問題は、同国の銀行にとって懸念材料となっている。

中国では、高い担保カバー率が銀行を守ることにはならない理由の1つとして、フィッチは「極めて誤解を招くような」資産評価があると指摘。もう1つの理由は、不動産価格の急落だ。フィッチのグレース・ウー氏によると、中国で行われている融資の6割以上は、何らかの方法で不動産が担保として使われている。

誰でも閲覧できる中国全土を網羅する一貫した不動産登記制度がないことも、不正担保が増えている原因となっている。

「情報の透明性が完全に欠如している」とホー氏は言う。

米国では、不動産登記は公開されており、買い手は本来の持ち主を確認するため検索することが可能だと同氏は指摘する。「中国でそれはできない。情報を確認するのはそうたやすいことではなく、言葉を信じるほかない」

銀行関係者によると、不動産の買い手が実際に借りられるよりも多くの融資を可能とするため、しばしば偽のキャッシュフロー計算書が提出されることがある。また、抵当証券の改ざんも問題だという。

それこそ、世界銀行傘下の国際金融公社(IFC)が中国のある富豪によって何千万ドルもの大金をだまし取られた手口だった。

不正は2007年、中国財界の大物である馮光成氏が会長を務め、香港株式市場に上場していた浙江ガラスにIFCが融資した後に始まった。2年後、IFCは不快な発見をする。この件を直接知る人物によると、他の銀行と話し合う中で、IFCの担保が他の複数の銀行の担保に流用されていたことが発覚した。

心配になったIFCは、直ちに弁護団を浙江省の土地と企業登録を管轄する当局に派遣した。しかしそこで、さらなる驚くべき発見が待ち受けていた。複数の情報筋によると、土地や不動産、工業機械を担保とする抵当証券に押された判は偽物だったのだ。

死んだ豚は恐れない

だまされたと分かり、IFC当局者は2009年後半、浙江ガラスの馮会長に会うべく、浙江省の省都である杭州に向かった。部下を従えてテーブルの上座についた馮氏は、融資について詳しく話したがらなかったと、同席したある人物は当時をこう振り返る。馮氏はすぐさま抵当証券は偽物だと認め、話を先に進めようとしたという。

「彼の態度は『死んだ豚は熱湯をかけられても平気(すでに悪い境遇にある者に怖いものはない、という意味)』という様子だった」と、この人物は中国のことわざを引用し、馮氏の態度を表現した。融資はすでに失われていたため、同氏に罰を与えようとするいかなる試みも無駄だった。

2010年、浙江ガラスに対し、IFCに返済するよう裁判所が命じたが、実現することはなかった。中国メディアは2012年、馮氏が別の詐欺事件で8年半の実刑判決を受けたと報じた。同社は翌年、破産宣告し、上場廃止となった。この件に詳しい人物によると、IFCは結局、融資額の2%しか回収できなかった。

IFCはロイターに対し、本件は浙江ガラスによる大規模な詐欺行為に関連した個別案件だと回答。ロイターは馮氏の弁護士あるいは浙江ガラスの代理人に連絡を取ることはできなかった。同社は現在、清算されている。

また、銀行は必ずしも、無知な、あるいは不注意な犠牲者であるというわけではない。銀行員が仕切り役を務めている場合もある。

例えば2015年、中国メディアの報道によると、中国農業銀行<601288.SS>の幹部Yang Kun氏は、特に融資絡みで3000万ドル(約33億円)超の賄賂を受け取ったとして無期懲役を言い渡された。ロイターはYang氏からコメントを得ることができなかった。中国農業銀行もロイターに回答しなかった。

(Engen Tham、翻訳:山口香子、伊藤典子、編集:下郡美紀)

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