不寛容な日本に弾かれた若者を格闘技が救う 前田日明が不良更生のイベントを続ける理由

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ルールのある格闘技を通じて、殴られる痛みだけでなく殴る側の痛みも知る。さらに前田は強調した。

「結果を得るために諦めないで努力し続ける。これが人生で一番大事なことです」

持て余していた力を新たな目標に振り替えることで何かが変わる。

「ところが、少年院を経験した選手にきくと、施設ではほとんどスポーツによる更生プログラムがないそうなんです。それどころか、身体を動かす時間すら充分じゃない。格闘技にサッカー、バスケ……更生のための手段としてスポーツは欠かせないものですよ」

ジ・アウトサイダーの趣旨はシンプル。16歳から35歳まで、プロの試合経験が3試合以下のケンカ自慢が集まり闘う。優秀な選手はメジャー団体でプロの格闘家としてデビューできる。年に4、5回のペースで大会を開催、体重別の王者がいて、会場はフルハウスになることが多い。選手にはいかにもという派手なタトゥーが目立つ。近年は少数ながら女子も参戦しはじめた。

会場を見渡せば、不良仲間が応援に駆けつけたのだろう、男女ともどもコワモテが多い。彼らに睨みをきかせる警備陣がこれまたいかめしい。入場の際には、ナイフやスパナといった凶器を発見するため金属探知機をくぐらせる。ジ・アウトサイダーには、いかにもというシーンや趣向が山盛りだ。

「試合も年を追ってサマになってきました。当初こそペース配分なんぞ無視、腕をぶんぶん振り回して突進する選手が目立ったんだけど、ここのところは格闘技の心得のあるのが増えてきましたね」

現役プロレスラーの今成夢人、役者として活動する黒石高大らジ・アウトサイダーから羽ばたいた若者も少なくない。

「自分らの世代の感覚だと『あしたのジョー』。家庭環境や学歴、犯罪歴にかかわらず格闘技の資質のある第二の矢吹丈、力石徹を発掘し育てるんです」

となれば、前田はさしずめ”丹下のおっちゃん”の役どころか。大会での彼は赤いブレザーを着こみ、試合ごとに勝利者にメダルを渡す。その際の選手たちのうれしそうな顔は、どれも印象的だ。

「選手たちにとって、自分は年齢的にも格闘技の経歴的にもオヤジみたいなものですね。実際、オレのことを父親のように慕ってくる子がけっこういます」

黒石高大、または「濱の狂犬」

さきほど紹介した黒石高大は横浜市出身で、今秋31歳になる。複雑な家庭環境から小学生にしてグレはじめ、いつしか「濱の狂犬」と呼ばれるようになっていた。

「オレの20代はアウトサイダーとともにあったといっても過言ではないです。前田さんと出逢わなければ、オレ、本物のヤクザになっていたと思います」

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