「複数内定」は当然、勝負は「内定後」にあり 辞退におびえる企業は入社式まで目を光らす

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その結果、複数の会社から、内定を得る学生が多い。同調査の昨年の結果がその実態を物語っている。昨年(2017年卒)の就活終盤時点(7月末)で、内定が決まった学生のうち1社内定を保有している学生が43.8%(前年同期52.0%)、2社が28.5%(同26.9%)、3社が27.7%(同21.1%)となっている。2社以上の内定保有者が半数以上に上る。学生に有利な売り手市場の中、複数内定が当たり前となっており、その傾向は年々高くなる傾向となっている。今年もその傾向は続いているようだ。

複数内定が多いことは、内定辞退者も多いということになる。同じくマイナビが企業向けに調査した、「2017年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」によると、昨年の内定辞退率が5割以上の企業は29.2%、3割以上に広げると52.7%に達する。こちらもここ数年、高い傾向だ。同調査で内定後の辞退率が「前年より高かったと」回答する企業は、31.4%となっている。

内定辞退に備え、多めに内定出し

こうした「複数内定保有者の増加=内定辞退者」の増加に対処するため、予定している採用数よりも多めに内定出しをする企業や、内定辞退による歩留まりを計算して当初の採用計画を多めにする企業が目立つ。ただし、予定数以上の内定出しを各社が行うことによって、さらなる内定辞退者を生み出し、またさらに内定者数を拡大させる……という悪循環に陥っているようだ。

そうした状況下、企業側は内定を出した後に、ほかの内定保有企業との条件面などの優位性をアピールし、いかに自社に引き留めておくか苦心している。売り手市場の中、採用活動の中心は内定出しから、内定辞退を減らす“内定後の学生争奪戦”にシフトしてきているといってもいい。

舞台となっているのが、「内定者フォロー」の場だ。企業は、内定を出した学生に対して、内定者懇談会や面談、社内イベントへの参加要請など、学生との接点を作って、そうした場で内定者の意思を改めて確認しているという。また、バブル期にあったように豪華な食事の席に招待したり、卒業論文のアドバイスをしたりと、あの手この手で、学生をつなぎとめようとしている。

もっとも、そうした手を尽くしても、「結局は辞退されてしまう」とある人事担当者はため息をつく。「3月になっていきなり内定辞退が出た」など、ぎりぎりになってから入社を辞退する学生もおり、来年の4月の入社式まで気が抜けない状況が続く。

こうした状況に対して、採用コンサルタントの谷出正直氏は、「今の学生は、納得する理由があれば動く。そこで働く社員が何を思っているのか、またなぜ入社したかといった点を重視しており、そうした点を酌み取って学生に伝えることが重要で、うわべだけの内定者フォローでは学生に思いは伝わらない」と、内定者フォローを通して、学生への対応を充実させる必要性を説く。信頼関係を構築し、その会社に内定するかどうかは別にして、就職状況について率直に話すことも大切だという。

一方の学生側は、改めてその企業や仕事についてじっくり考えて就職先を決める、いい機会になる。「悩むことはOK。まずは悩みを社会人に聞いてもらうことがいい。社会人は正解を言うのではなく、その人にとって最適だと考えていることを言うので、聞いた内容から、合う合わないを選べばよい」と、谷出氏はアドバイスする。

企業にとっても、学生にとっても、内定後も気が抜けない日々が続きそうだ。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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