「それをのむ自分は、甘いですかね」
「そうね。もし1年後に結婚できなかった場合は、またゼロからのスタートになるよ。それでもいいの?」
「ですよね。だけど彼女の過去を考えると、それも受け入れてあげなきゃいけないかな、って。彼女のことが好きだし、自分のペースで事を動かすと、この結婚はダメになる気がするから」
そうして裕紀は、彼女の提案を受け入れ、5月に退会していった。
彼女が慎重にならざるをえなかった理由
なぜ彼女が、“1年様子を見て、それから入籍をしたい”と言ったのか。彼女は、1度結婚に失敗をしていたのだ。36歳の時に結婚をしたのだが、1年足らずで離婚をした。その時の結婚には“実態”がなかった。籍を入れたのだが、一緒に暮らす前に関係が破綻し、離婚をした。結婚が破綻した理由を、裕紀は知らない。
裕紀がポツリと漏らしたことがある。
「彼女、『そうとう傷ついた』って言ってたな」
彼女自身は“もう二度と結婚はしたくない”と思っていたのだが、もうじき40歳になる娘を心配した母親が、仲人をしている友人の結婚相談所に登録をした。そして、何度目かのお見合いで、裕紀に出会ったのだ。
一方、裕紀が私の相談所に面談に来たのは、退会する10カ月前のことだ。大手結婚情報センターでお見合い活動をしていたが、そこで結婚を決めた女性から、数週間後に結婚を破談にされた。そんなときに私をFacebookで知り、メルマガを読んで訪ねてきてくれた。
面談の時、こんな会話をしたのを覚えている。
「どうして彼女は急に『結婚をやめる』と言いだしたのかしら」
「なんだか彼女のお父さんががんで余命3カ月を医者に宣告されたらしいんです。その後すぐにお母さんにもがんが見つかって。彼女は、『もう結婚どころじゃなくなった。結婚はできない』と言ってきたんですね」
「でもそんなときこそ、結婚してパートナーと助け合ったほうが心強いって、普通は思うんじゃないの?」
「僕もそう言ったんですけど、彼女は“結婚できない”の一点張りでした。
本当にご両親ががんだったかどうかはわからない。作り話だったかもしれない。だけど、“結婚できない”というのが、彼女のその時の正直な気持ちだと僕は受け取ったから」
女性を思うやさしさなのか、自分が傷つきたくないがための防御なのか、恋愛を達観したあきらめなのか。その時私にはわからなかったが、のちに裕紀の過去の恋愛話を聞いて、なぜ女性のわがままをすべて受け入れてしまうのか、その理由がわかった気がした。
裕紀は、身長172センチメートル、今でも休みの日には友達とフットサルをするというスポーツマンだ。体はほどよく引き締まり清潔感もある。学生時代や20代の頃はさぞモテただろうと思いきや、学生時代は女の子と付き合ったことがなかったという。初めて女性と男女の関係になったのは、29歳の時。会社の2つ上の先輩で、10年間片思いしていた人だった。ただ、彼女には彼氏がいた。
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