電話を切ると、「いやあ、お待たせしました」と言う。それはそれでいいのですが、お茶を運んできた女性秘書のお茶を出す手が震えている。一瞬にして、先ほどの、机に足をのせて電話をしている姿を思い出し、社員が相当に、この社長を怖がっているのだと直感しました。そして、私と話をしながら、平気で足を組む。
話の途中、男性社員を呼びだしましたが、その社員もまさに直立不動。社長の話の仕方も、「お前」とか、「さっさと対応しろよ、なにをやっているんだ」と怒鳴るような話し方。ただただ社員は硬直した状態で「ハイ、ハイ」というのみ。こちらが、いたたまれない気分になったことがあります。
これでは、社内の雰囲気も良くないだろうし、風通しも最悪に違いないと思いつつ、その会社の入っているビルを出たとき、この会社、潰れるかもしれないねと、一緒についてきた部下に話をしました。私の部下は「やあ、緊張しました。ビックリしました」というばかりでした。そして、そのとき、私は、この会社と付き合うのはやめる決断をしました。
大抵の社長には「愛嬌」がない
それから、5年ほど経ってから、その会社は、本当に倒産してしまいました。まったく驚きませんでした。その社長を思い出しながら、むしろ、当然だろうな、と思っただけでした。
むろん、このような社長は極端としても、大抵の社長は、松下さんのような「愛嬌」がない。職場を回らない。社員に声を掛けない。雑談をしない。夢を語らない。同じ目線で話をしない。だから、経営に苦労するのです。だから、経営は難しいということになるのです。
日々、社員と共に、同じ目線で、声を掛けるだけで、職場を回るだけで、経営はうまくいくものです。ですから、経営なんて、簡単なものです。実際、さして能力もない私でも、PHP研究所を発展させることができました。松下さんのマネをしただけで、34年間の経営期間で、年商を27倍に拡大、赤字から黒字の会社にすることができました。
職種によって違いはありますが、社内が雑然としている、すれ違っても社員が会釈をしない、社長がスリッパを履いている、社員にのびのび感がない。この4項目のいずれか1つでも当てはまる会社は、おおむねその後も、あまり発展しないか、衰退するかのいずれかでした。あくまで筆者の経験則ですが、最後にそのことを付記しておきたいと思います。
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