その2つを牛尾さんに伝えると「えっ? 愛嬌? 愛嬌って、女は愛嬌はわかるけど、受験生は男の子ばかりだよ。で、愛嬌? 運が強いということはわかるけどね。愛嬌ねえ」と声を出して笑い「まあ、いいでしょう。なんとか考えましょう」。それでも面接室に向かいながら、「愛嬌ねえ」と繰り返し、ケッケと笑っていました。
結果として、その2つに叶った者ばかりが合格したかどうかは、わかりませんが、なぜ、松下さんが「愛嬌」と言ったかというと、指導者は、人が寄ってくる、人が集まってくる雰囲気、優しさ、魅力がないといけない、すなわち「愛嬌」がないといけないということです。
そうでないと、衆知が集まらない。情報が集まらない。実際、松下さんは、誰もが会いたくなる、話したくなる「なにか」を持っていました。その「なにか」を松下さんは「愛嬌」と言ったのでしょう。
そうです。経営を上手に進めていく、成果を上げていくのに、さほどの難しさはないのです。社長に、指導者に「愛嬌」があればいいのです。社長が、指導者が、尊大に、偉そうに、傲慢に振る舞うことなく、社員と、あるいは部下と同じ目線で、声を掛け、ときに、励まし、笑顔で接するだけでいいのです。
「愛嬌」とは、笑顔ではありません。人懐っこい表情ではありません。上から目線でないことです。相手が誰であろうと、同じ高さで接することができることです。
部下と同じ目線で話をできるか?
そこで、お伺いします。社長であるあなたは、あるいは、リーダーであるあなたは、職場を回って直接、社員に声を掛けていますか。社員の話に耳を傾けていますか。社員と雑談していますか。小声で社員の一部と話してはいませんか。仕事大事ではなく、人間大事の考えを持っていますか。社員に先んじて日々努力していますか。社員に夢を語っていますか。口先ではなく、心で話をしていますか。社員を感動させていますか。こういうことができるということが「愛嬌」なのです。
なんだ、そんなことか、と思われるかもしれませんが、そうなんです。それだけなんです、経営をうまくやるコツは。会社を成功、発展させるためには、社長自身が威張ったり、偉そうに振る舞ったり、上から目線で社員を見下ろすのをやめるだけでいいのです。そういうことより、会社の発展が大事。会社の成長によって、社員が安心し、そして安楽に生活できることが大事。社員に「やる気」を持たせること。心をひとつにすること。打って一丸にさせること。そういうことです。経営なんて、ですから、簡単でしょう。難しいことはありません。
この文章を書きながら、ふと思い出しました。15年ほど前、PHP研究所の社長をしていたころに東京の赤坂にあったIT会社を訪問した際のことです。約束の時間にお伺いしたのですが、受付で30分ほど待たされました。その間、誰も、なにも言ってきません。
受付の女性社員に尋ねると、「いま、すぐ、秘書がまいりますので、少々、お待ちください」というばかり。ようやく、秘書が来て、社長室に案内してくれましたが、ドアを開けて見た光景に、私はあぜんとしてしまいました。なんと社長が机に両足をのせて、電話で話をしているのです。さすがに、すぐにスリッパを履いた足を下ろしました。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら