マクロン氏が強い仏大統領になるための条件 決選投票前世論調査ではマクロン氏勝利有力

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 4月23日、フランス大統領選の第1回投票で、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相は2週間後の決選投票への進出を決めた。しかし、大統領として改革を実行するためには決選投票を大差で制し、6月の国民議会(下院)選挙に向けた基盤を固めることが重要になる。写真は決選投票への進出を祝うマクロン前経済相。パリで23日撮影(2017年 ロイター/Benoit Tessier)

[パリ 23日 ロイター] - 23日に実施されたフランス大統領選の第1回投票で、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相は2週間後の決選投票への進出を決めた。しかし、大統領として改革を実行するためには決選投票を大差で制し、6月の国民議会(下院)選挙に向けた基盤を固めることが重要になる。

第1回投票の開票がほぼ終了した時点でマクロン氏は得票率24%。22%を獲得した極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首を上回った。

世論調査によると、決選投票ではマクロン氏がルペン氏に圧勝する見込みとなっており、マクロン氏の決選投票進出が欧州各国政府や金融市場に安ど感をもたらすのは確実とみられる。

しかし、マクロン氏が選挙後に政治・経済改革を実行するチャンスを得るためには、決選投票で大きな勝利を収め、6月の国民議会選で主要政党から知名度の高い議員の協力を得る必要がある。

選挙で公職に就いた経験がなく、政治運動「前進」を昨年立ち上げたばかりのマクロン氏にとって、23日の結果は大きな勝利だったかもしれない。しかし、仏大統領選第1回投票の得票率としては2002年の選挙以来の低さだ。

2002年の選挙でジャック・シラク氏は第1回投票の得票率がわずか20%にとどまったが、決選投票ではマリーヌ・ルペン氏の父親でFNを創設したジャンマリ・ルペン氏の勝利を阻止するため全ての主要政党が協力したことが奏功し、シラク氏が82%の票を獲得して圧勝した。

今回も、保守派と社会党は早くも支持者にルペン氏の勝利を阻止するよう呼びかけた。

ただ、2002年の選挙と異なるのは、今回は保守派と社会党の支持を合わせても26%の票にしかならない点だ。

アナリストは、決選投票でマクロン氏の得票率が60%を割り込めば、分断されたフランス社会に対して経済改革を実行できると確信させることは難しいと指摘する。

そうなった場合、6週間後の6月に控える国民議会選で「前進」が過半数を獲得することは困難になる可能性がある。

カギは「モメンタム=推進力」

マクロン氏は第1回投票の勝利演説でこうした懸念を直視し、「私がリードし、統治して行く上で、私を後押しするモメンタムが鍵になる」と述べた。

23日に実施された2つの世論調査では、決選投票でのマクロン氏の支持率は64%および62%と予想されたが、ルペン氏は厄介な対戦相手となりそうだ。

調査会社ビアボイスのフランソワ・ミケマルティ氏は「見かけほど単純ではない。新たな選挙戦がスタートする」と述べ、「ルペン氏は、グローバル化時代を行くエリートとしてのマクロン氏と大衆の候補としての自身との対決という枠に当てはめて決選投票を戦うだろう」と指摘。「大当たりになり得る攻撃をルペン氏は用意している」と語った。

「持てる者」と「持たざる者」の分断から、仏労働者の職と権利を守ることができるのはルペン氏だけだという同氏のメッセージへの支持が拡大してきたフランスでは、主要政党からの支持がマクロン氏に不利に働く可能性もある。

ルペン氏は23日、「オランド大統領の後継者から変革が期待できないのは明白だ」と述べ、マクロン氏を衰える権力層の候補だと一蹴した。

ビアボイスのミケマルティ氏は「マクロン氏はより攻撃的なアプローチをとる必要がある」と指摘する。

この点についてマクロン氏は23日の演説でこう述べている。「今夜からの課題は、誰かに対する反対から投票するのではなく、30年以上にわたってフランスの問題に対処できなかったシステムから完全に決別することだ」──。

経済運営能力はあるのか?

マクロン氏の強みは、有権者の35%が同氏について、仏経済の改革を進める上で最善の候補とみているのに対し、ルペン氏は20%にとどまっている点だとアナリストは指摘する。

ルペン氏の反ユーロ姿勢に対し、大半の有権者だけでなく同氏の支持者の間でも否定的な意見が多いことも、マクロン氏には攻撃の手段になる。

アナリストは決選投票でのマクロン氏の勝利を見越し、同氏が政策実行に必要な政治勢力を結集できるかどうかに関心を向けている。

マクロン氏は国民議会選で577の全選挙区で候補者を擁立するとしているが、他党の党員でも見解を共有する者は歓迎する考えを示している。既に50人程度の社会党議員がマクロン氏の政治運動に加わっており、中には大物議員の名も見受けられるが、決選投票で多くの票を集めれば集めるほど、同調者は増えるだろう。

マクロン氏は連立政権の樹立を避けられない可能性があるが、アナリストや投資家にとっては、形態にかかわらず、マクロン政権が労働関連規制の緩和など国民の反対が必至の政策を実行できるかどうかが問題だ。

JPモルガン・チェースのラファエル・ブルンアケレ氏は、マクロン氏が下院で過半数を確保するのは非常に困難との見方を示し、「一部の改革を軸に党派を超えた連立形成を目指すことが予想される」と述べた。

マクロン氏は、この1年で専門家の予想を覆してきたように、国民議会選でも過半数を獲得すると言明した。

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