1台のスマホが照らす豪州難民施設の真実 収容中のジャーナリストが実名で内部告発

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たかが歯痛と思うかもしれないが、一晩でも激しい歯痛を我慢するのはかなりつらいはずだ。それを、歯を失うまでの“2年間”にわたって歯科医の治療を受けられずに耐えてきたことは、決して人道的とはいえない環境に置かれていることが想像できる。まして、この施設内には、すでに正式な難民認定を受けているにもかかわらず、行き先が定まらず留め置かれている難民も多い。本来、適切な居住環境を受けるべき資格を持つ人々でさえ、満足な医療も受けられない現状が、世界のさまざまなメディアから厳しく批判されている。

パプアニューギニア・マヌス島の難民収容施設の日常(写真:ベルーズ・ブッカーニ氏提供)

ここにいて身の安全を感じたことがない

ブッカーニさんはこうした内部からの発信に、初めの2年間は決して、実名を使わなかった。自らの身に危険が及ぶことを避けるため、匿名にする必要があったのだ。1度、警備員が部屋を突然訪れ、ブッカーニさんのスマートフォンを取り上げた。「お前には携帯を持つ権利がない、もし持ち続けるならば将来悪いことが起こるだろう」と脅されたという。

ところが、しだいにBBCや英紙ガーディアンなど世界の大手メディアがブッカーニさんの存在を知るところとなり、国際的なジャーナリズム団体などのサポートを徐々に得られるようになると、当局から脅しや妨害などが入る懸念はなくなったと判断し、実名での発信に切り替えたという。その後、フェイスブックやツイッターなどのSNSのみならず、英紙ガーディアンやハフィントンポストへの記事の寄稿を通じて、日々収容施設内の実態を訴えている。

「私はここにいて身の安全を感じたことはありません。彼らは僕のSNSのやり取りをつねに監視している。しかし、ジャーナリストとして発信しなくてはならない施設の現実がある。今、僕からスマホを取り上げることは、(人権上)できないはずだ。もしも取り上げたら、この収容施設内は外界との接触を遮断され、完全に孤立してしまうでしょう」

彼は、4年経ってだいぶ上達してきたという英語を使って、そうメッセージを送ってくれた。

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