「人を好きになる感覚」はこうしてよみがえる

結婚はビジネスのマッチングではない

レストランのテーブル席で俊之さんの隣に座り、彼が訥々(とつとつ)と話す様子を優しい目で見ていた秀美さん。「いい意味でなかったら許せん!」と笑いながら口を挟んだ。今度は秀美さんの話を聞こう。

凝り性で責任感が強い秀美さん

秀美さんによれば、2人の経歴は似ている。挫折や転職、10年ほどの修業時代、そして開業。業種は違っても、認め合い許し合える要素が多いのだ。自営業者同士なので、顧客との関係性やおカネの使い方などにも「わかる」点が少なくない。

「大学を卒業してから出版社の編集部に勤めて、いずれは自分の編集会社を作ろうとあがいていました。でも、うまくいかなかった。そんなときに阪神大震災が起きて、お節介したいけれど何もできない自分に気づいたんです。独立のために貯めていたおカネをはたいて専門学校に入り、柔道整復師の資格を取りました」

凝り性で責任感が強い秀美さん。整形外科のリハビリ室などで修業をする一方で、介護業界との連携の必要性も感じて、ケアマネジャーの資格も取った。

「必死で働いていると、育ててくれる人が現れるんですね。そういう人は実力があるので、難しい患者さんや利用者さんを担当することが多いんです。私にも実践の場を与えてくれました。大変だけどすごく力がつきます」

現場での笑い話がある。裕福なお年寄りから「うちの息子はどうか」と声がかかることが多いのだ。治療や介護に出向いた際、離れて暮らしているはずの息子がその家にいて、強制的にお見合いをさせられたこともある。しかし、秀美さんはそれとなく断った。

「外では働かなくていいので自分の世話を焼いてくれ、ということですよね。おばあちゃんたちは本当にしたたかです(笑)。でも、おカネと引き換えに自由がなくなってしまいます。人は自分の足で立たなくちゃダメですよ」

8年前に東京の郊外で開業した秀美さん。地域の人たちや患者との関係を重視しているため、結婚によって廃業や移転をするつもりは毛頭ない。仕事はそれぞれ頑張り、家では「バカなことを言って笑い合う」パートナーが欲しかったのだ。

ただし、不特定多数の人が参加するネット婚活を始めて、希望とは異なる男性からアプローチを受けることが多かった。接骨院経営というプロフィールが影響しているようだ。

「公務員の人からは『仕事を辞めて学校に行きたいのでその期間は食わせてほしい』と頼まれたことがあります。薬剤師の男性からは、結婚してデイサービスの事業を一緒にやろうと提案されました。それって結婚ではなくビジネスの話ですよね」

だからこそ、ネット婚活を始めて7カ月目に出会った俊之さんに対しては「この人は、とてもいい!」とすぐに思った。

「青空が似合うのんきな自転車屋の彼。気持ちのいい出会いでした」

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