所沢が「埼玉の人口争奪戦」独り負けの理由 急減した人口は「入間や狹山」に流出していた

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このように、所沢市や春日部市の人口減少は、東京23区との競争というよりも埼玉県内の競争に負けていることが要因であるとわかる。

その理由を考えてみると、1つに副都心線が東武東上線、西武池袋線に乗り入れた影響がありそうだ。これで池袋だけでなく、新宿、渋谷、さらには横浜までがつながることになった。であれば、東上線の川越駅始発に乗ったほうがよい。池袋線でも、所沢より遠い駅から乗ったほうが、座って通勤できるのである。

春日部市も同様だ。春日部市から転出超過している宮代町、幸手市、杉戸町、白岡市は、JRを使えば上野まで45~50分ほどであり、池袋、新宿、渋谷などにもJR湘南新宿ラインを使って1本で行けるからだ。新宿までは50分ほど。

春日部からだと上野、東京までは1時間程度だが、新宿、渋谷となると1時間10分ほどかかる。となると、都心にも副都心にも行きやすいJR沿線に引っ越す人が増えるのは当然だ。交通網の整備によって、都心から距離的に遠い地域が時間的に近づいてしまったために、春日部は所沢同様、転出者が多い地域になってしまったのである。

東京都でも、立川市、多摩市の若者世代の人口が減っているが、これも立川駅や多摩センター駅などでは始発に乗れないことが影響しているかもしれない。

飲食店を開くなら、所沢よりも川越がいい

また、所沢は、会社に通勤するサラリーマンだけではなく、飲食店などを経営する自営業者にも選ばれていない面がありそうだ。人口が減れば商売がしにくいから当然だ。結果、商売をする人の人口も流出するという悪循環があるのではないか。

古い町並みの残る川越市は、観光客だけでなく人口も増加している(筆者撮影)

実際、こんな話を聞いた。私が川越市に取材に行ったとき、同市内で活動する知人が焼き鳥屋に連れて行ってくれた。その店がとっても美味しかった。銀座や神楽坂など都心のグルメな街でも十分有名店になれるほどの味だった。

店主は、東京で修業して自分の店を出すために埼玉に戻ってきたのだという。店主の出身は所沢市だ。だから所沢市内で店の物件を探した。だが気に入ったものがなく、結局、川越に店を出したというのだ。川越なら古い商店が残っており、そこをリノベーションすれば、それこそ神楽坂の店のような雰囲気がつくれる。観光客も多い。

所沢にも古い商店が昔はあったが、ほとんどがタワーマンションなどに建て替わってしまった。美味しい店を出したくなるような物件があまり残っていないようなのだ。

このように所沢市は、都心に勤めるサラリーマンにとっては通勤しにくく、子育て世代にとっては子育てしにくく、シニアには老後を楽しく過ごしにくく、自営業者にとっては商売しにくい街として認識されてしまった観がある。

ただし所沢にも少しこれから盛り返そうという機運は出てきたようだ。かつては料亭街だった地域に、「盃(さかずき)横丁」という飲み屋街があったが、これを最近再び元気にしようという動きが出てきたのだ。看板、照明などもきれいにして、店も新しい店が入ってきた。私が所沢の知り合いに連れて行ってもらった店は、京都の先斗町で修業した板前さんの店だった。その他にも若い女性が何人かでワインを飲む店もあった。

こういう夜の楽しさがなければこれからの郊外は発展できないだろうと私は考えている。

三浦 展 社会デザイン研究者

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みうら あつし / Atsushi Miura

カルチャースタディーズ研究所主宰。1958年生まれ。1982年に一橋大学社会学部卒。パルコに入社し、マーケティング誌『アクロス』編集室。1990年に三菱総合研究所入社。1999年に「カルチャースタディーズ研究所」を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。 著書は、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、『第四の消費』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代』『あなたにいちばん似合う街』など多数。

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