高度成長期の幻を売る「謎の屋台女子」の正体

リーマン直後に就職し、「純喫茶」に救われた

1カ月に数回、新宿・ゴールデン街のバー「汀」でママをしている菅沼朋香さん。店内には歌謡曲が流れ、昭和にタイムスリップしたような感覚になる(撮影:今井康一)

昭和の文化への関心は、近年つねに高い。「昭和ニューロマン」をコンセプトに活動を広げている女性アーチスト、菅沼朋香さん(31歳)もその1人だ。

「高度成長期の幻をひとつ、いかがでしょうか」。昭和の歌謡曲のレコードを流しながら、街の片隅で屋台を出す。

リーマンショック後の広告代理店に就職

菅沼さんが昭和、特に高度経済成長期の文化に“開眼”したきっかけは、名古屋市の美大を出て入社した広告代理店での日々にさかのぼる。入社したと同時に、リーマンショックが起こった。広告の受注が一気に減った。

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そんな中、彼女は営業職として働き、クライアントを回って長時間労働の毎日を送っていた。売り上げ目標を達成できなければ、「赤字社員」として上司から罵倒されるため、何とか数字を上げようと、寝ても覚めても仕事のことばかり考えていた。バブル期を体験している上司からは、「景気は必ず回復するから、今は耐えしのごう」と言われたが、バブルなんて知らない彼女にはまったく現実味がなかった。新卒入社の同期は4人いたが、半年以内に3人が退職。残りは彼女1人となった。それでも仕事を続けていたのは、辞める勇気がなかったからだ。

「私は典型的なサラリーマンの家庭に生まれ、育った環境で出会う大人もほとんどがサラリーマンだったんで、会社勤め以外の働き方を学んでこなかった。理不尽なことがあっても、正社員として会社に勤めることこそが美徳であり、その社会的評価を失うのが怖かったんです。生活費や社会保険の支払いなど金銭的な不安もありました」

当時の彼女の通勤服は、黒、グレー、紺色などのスーツにカットソー。ストッキング、靴、かばん、ベルトなどはすべて黒で統一した。食事はコンビニで購入し、会社のデスクで仕事をしながら食べた。夕食は何を食べていたのかすら記憶にないが、空腹を感じても味覚に対する欲求が生まれなかった。何が食べたいのかすら、わからなかった。

入社3年目にはいよいよ精神状態が悪くなり、出社したとたんに涙が止まらなくなる日が何度かあった。精神安定剤を服用するようになった。

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