NHK受信料、「ホテル1部屋1世帯」の不思議 受信料のあり方を根本から見直す必要がある

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ところが、土壇場でひっくり返り、B-CASカードは「必須」となった。これを強く望んだのはNHKである。受信料支払いを促すテロップを常時出し、テロップを消すための手続きを設定することで、受信料徴収率の向上を図ることができるからだ。この方法ならば、非常時に放送を届ける使命を全うしながら、受信料徴収率の向上も狙うことができる。

こうしてB-CASカードが日本のデジタル放送の標準になった。しかし、ここまでのことをしたのであれば、「公共放送維持コストの公平負担」について、もっと効果的な手法を考えるべきではないだろうか。

宿泊業者に対し部屋ごとに1世帯と見なすというNHK側が設定しているルールにも再考が必要ではないだろうか。宿泊施設におけるNHK視聴の受益者は宿泊者であるが、宿泊者が自宅で受信料を支払っているとすれば、この支払いルールは過剰とも言えそうだ。せめてNHKの番組を受信することに関して宿泊業者側に選択肢を設け、NHK受信ができないB-CASカードを作るなどの措置があってもいいのではないか。

受信装置(=テレビ)を設置する側には選択の余地がないことが、この違和感に拍車をかける。

テレビはテレビ放送を見るだけのものではない

もっとも、世帯ごとの徴収という昔ながらのスタイルを続けるかぎり、こうした矛盾が解消されることはない。そうであれば、フランスのように税金として徴収する、あるいは英国のように罰則付きの義務にするなど、包括的な徴収方法を考えたほうがよいのかもしれない。

NHKの受信料収入に対する徴収コストの割合は低下傾向にあったものの、近年は11%前後で安定している。この数字をさらに引き下げることは全体の利益にもなる。

さらに言えば、現在は激動期にある。テレビ受像機(いわゆるテレビ)は、その誕生以来、最も大きな変革期を迎えていると言っても過言ではない。かつてはその名前のとおり、テレビ放送を受信する装置だったが、欧米を中心にインターネットを通じた映像配信サービスが急速に伸びている。日本では他国ほど普及は進んでいないものの、これからはさまざまな映像サービスの窓としてオンデマンドサービスを受信するディスプレーとしての役割が強くなるだろう。

だからこそNHKの受信料徴収のあり方に関しては、今後の動向を見すえた根本的な議論が必要になっている。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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