NHK受信料、「ホテル1部屋1世帯」の不思議 受信料のあり方を根本から見直す必要がある

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NHKと放送受信サービスの契約締結は義務とされているものの、その契約を履行するか否かは個々の契約履行に関する問題である。「受信料不払い世帯増加」が話題になることがあるが、その契約履行に関する訴えは、NHKが個々の不払い世帯ごとに行う必要がある。

支払いを拒否する個人全員に対して個別に裁判を起こすことには消極的だったNHKだが、公平負担の観点から裁判を行う方針に転換。NHK受信料の支払いを拒否している世帯約1000万世帯のうち242件について訴訟を起こしている。このうち168件が支払いに応じた。残りが実際に裁判となった例だが、うち42件でNHKが勝訴している。係争中の案件に関してもNHK勝訴との見方が強い。

NHKの受信料支払いには事実上、法的拘束力がある。しかし、各種料金体系や徴収ポリシー(受像機ごとではなく世帯ごとの徴収)などの契約内容について視聴者側にはいっさいの選択肢がない。チューナー内蔵機器を設置するだけで契約が義務づけられながらも、契約内容に選択肢がないことは大いに疑問といえるだろう。

前述した東京都内の男性が起こした裁判では、契約の自由を侵害しているとの理由で、放送法第64条の合憲性が争われている。最高裁大法廷での判断は年内にも下される見込みだが、本件で最高裁は法務省に意見陳述を求めている。

宿泊施設の場合は「半額」になるものの・・・

さて、一般家庭の場合は世帯ごとの支払いとなっている受信料だが、宿泊施設の場合は個々の部屋ごとに1世帯とカウントされる。すなわち、一般家庭内に何台のチューナー内蔵機器があっても料金は変わらないが、宿泊施設側は部屋の数だけ支払う必要があるわけだ。事業所の場合には2契約目以降は半額になるという特例があるものの、部屋数が多ければその負担は極めて大きなものになる。

現状のルールでは、NHKとしても部屋ごとに徴収を行わざるをえないのだろう。しかし、時代とともに映像の楽しみ方が変化している中で、現在の徴収のあり方が実態に即しているかといえば、そこには疑問が残る。

NHKの受信料負担は、公共放送というNHKの立ち位置もあって、つねに議論の対象となってきたが、筆者が本件で思い起こしたのは2004年のB-CASカード導入時の顛末である。

B-CASカードとはデジタル放送を受信する際、受信機器ごとに使う暗号化された放送の復号を行うためのカードだ。B-CASカードはデジタル放送を受信するために必須となっているが、当初の計画ではB-CASカードなしで無料放送を受信できるはずだった。

民放は広告収入によるビジネスモデルのため、無料で放送している番組を観てもらうことが優先であり、B-CASカードのコストを負いたくないこともあってカードなしでの無料放送視聴を望んでいた。

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