慶大教授が「弱者救済はやめろ」と言う理由 「現物ベーシック・インカム」が日本を救う

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井手:僕の考えは奥田さんと少し違っていて、段階があると思っています。25条がある一方で、27条(条文:「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」)がある。つまり勤労の義務がある以上は、勤労していない人間は救わなくていいのではないかという発想に結びつきやすい。実際、そういう議論が憲法を作る際に普通に行われていた。だから最初の段階では、「生活保護は権利」というところから入らなくてはいけない。

ただ、それを主張すると「働かざる者食うべからず」という議論が出てきます。この言葉を使っていた(ソビエト連邦の初代指導者)レーニンが言う「働かざる者」とは、不労所得で荒稼ぎしていた貴族のことです。それなのに日本人は「勤労していないやつがなぜ税金で楽をするんだ」と考え、「働かざるもの=生活保護受給者」となってしまう。ホームレスの問題も同じです。勤労しない人間は非人間的なくらしを余儀なくされても「自己責任」だから「仕方ない」となってしまう。生きる権利をもっときちんと考えなきゃいけない。

就労以外のゴールを増やすべき

奥田 知志(おくだ ともし)/1963年滋賀県生まれ。NPO法人「抱樸」理事長。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。関西学院大学神学部大学院修士課程修了。1982年大学入学と同時に日本最大の寄場(日雇い労働者の街)に出合う。以来、生活困窮者・ホームレス支援に携わる。「NPO法人北九州ホームレス支援機構」を設立。九州大学博士後期課程単位取得退学。公益財団法人共生地域創造財団代表理事。一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワーク共同代表。著書に『「助けて」と言える国へ』(集英社)など、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」「こころの時代」出演(写真提供:奥田 知志)

奥田:そのとおりだと思います。国の会議に参加していると、最近は「エビデンス」という言葉が飛び交います。本来の意味は「証拠」あるいは「裏付け」という意味だと思います。しかし、実際には「成果」という意味で使われる場面が多い。つまり「エビデンスを出せ=成果を出せ」と。しかも、この成果はほとんど経済効率に偏っています。

(2015年4月に施行した)生活困窮者自立支援法の狙いは「経済的困窮と社会的孤立の解消」でした。にもかかわらず、結果として強調されるのは「就労」と「増収」でした。その問題を指摘すると「KPI(Key Performance Indicator)重要業績評価指標」が問われるようになりました。

これは一歩前進だと思いますが、KPIは「目標の達成に向かってプロセスが適切に実行されているかどうか」を問うものに過ぎません。だから「KGI(Key Goal Indicator)重要目標達成指標」でいうG(目標)を「就労」「増収」としているかぎり、結論は一緒です。KGIを変えないかぎり、KPIの基準をたくさん作っても意味がないように思います。やはり就労以外のゴールを1~2つ増やすべきです。

井手:おっしゃるとおりです。勤労が義務になっていて、とにかく働かせて生活保護を減らす方向で議論されるが、それは違う。経済的困窮だけではなく、社会的孤立も含めて解決しなくてはいけない。人間は社会的な生き物。「自立」と言っても、「経済的自立」だけではないんですから。

しかし予算制約の問題で、そうした議論は進んでいきません。

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