慶大教授が「弱者救済はやめろ」と言う理由 「現物ベーシック・インカム」が日本を救う

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奥田:行政コストを単年度でとらえると単純に「生活保護受給者数を減らせ」ということになりかねません。しかし、実は複数年度で見るとずいぶん違う。

そもそも生活保護を「最後のセーフティネット」などと位置づけているのが間違いです。生活保護法1条の「目的」には「自立の助長」が明記されていますが、実際には、すべて失ってやっと保護にたどり着けるのが現状です。そうではなく、破綻する前に保護を開始することで、早期の保護離脱も可能だと思います。

たとえば「自立助長」の保護受給者の場合、保護費を倍程度出して手厚く支援し、3~5年で保護廃止まで支援する。でも、そもそもの雇用自体が不安定化しているので10年後に再受給ということもありうる。早めに再受給してもらうことが肝心ですが、これを3~4回繰り返して80歳までいったとする。働いているときは、保護費は当然かかりませんし、その時の納税や社会保険料の納付まで考えると、生活保護を60年間受け続けるよりもコストは安いということになります。

だから受給者数は増えても、長年でみれば全体の保護費は下がるということもありうる。しかし、現状は最低限保障であるゆえに、選択肢が少なく、結果滞留。20歳の人が80歳まで60年間生活保護を受給する事態も起こりうるのです。

財政には「みんなの利益」の視点が不可欠

井手:僕は「格差是正はダメ」「弱者救済ではもたない」と、はっきり言っています。日本は、多くの中間層が低所得層の仲間入りをしている。なのに、彼らの多くが日本は格差が大きくないと思っています。低所得者を助けてしまうと、貧しい人が受益者になる一方で、中・高所得者は負担者になる。つまり自分は平均的日本人だと思っている人たち、そう信じたい人たちに対して、「貧しい人を助けるからもっと税を払え」ということになります。

しかし、そう言われても実際には払えない。だって、現実には低所得層になっていたり、そこに近いところで踏ん張っていたりしてるんですから。僕はブレグジットもトランプ氏が大統領になったのも、ここに原因があると考えています。すなわち「中の下の反乱」です。米国では白人のミドルクラスの中で生活に困っている人たちがトランプを支持し、ヒスパニックなどの移民も実は3割もトランプを支持しました。

じゃあ格差はほったらかすのか。違います。大事なのは「だれかの利益」ではなく「みんなの利益」という視点です。ヨーロッパでは医療費がタダ、大学がタダ、育児や保育、介護の費用も日本より断然安い。これは「みんなの利益」です。日本の医療や介護、教育の補助にはことごとく所得制限があって「低所得層の利益」になっている。だから、「生活保護受給者は高い医療をタダで受けている」というたぐいのねたみを生み、社会を分断してしまう。

それなら、医療や介護、教育などみんなが必要としている「普遍的なニーズ」を「サービス」で「みんな」に配ればいい。結果として生活保護として支給されている医療扶助も住宅扶助も介護扶助もいらなくなるんです。

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