「うちの嫁が」と言う男性には違和感しかない 土井善晴さんが訴える家の仕事の再認識

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――今年で60歳を迎えられましたが、この先どんな目標がありますか?

狭いところで言えば、家庭料理の楽しみかた、調理技術を体系的にブラッシュアップしてひとつの形にまとめたいな、という思いがあります。それはもう若い世代に伝えたい。とにかくこれからは「伝える」ことが自分の仕事やと思っています。私はなんにも隠さないで、全部伝えていきたい。

もうちょっと大きなところで考えると、「秩序を作る」ということにすごく興味がありますね。家庭料理の周辺にあることやものの価値を、言葉できちんと説明して、そのよさ、見方というものを次の世代にわかりやすく伝えていきたい。それは料理だけじゃなくて日常の暮らし、生きかたにも多分通じていくはずだから。

料理でも何でも新しいことをやろうとしたら、今自分がイデオロギーの中にいることを自覚しないと。何か新しいこと、まだ誰もしていないことをしようと思ったら、秩序の外に出ないといけないでしょう。つまり「とらわれない」ということですけど、外に出るともっと大きな秩序の中にいることがわかるんです。

だからこそ、今まで言語化されてこなかった大事なことを、きちんと伝えていきたいですね。人間が幸せになる方法がそこにあるんちゃうかなぁと思います。

「うちの嫁が」と言う男性には違和感しかない

そういう意味では、専業主婦として家のことをしてきた女性たちの仕事の価値を再認識することはすごく大事なことだと私は思っています。おばあちゃん、お母さんが苦労してやってきたことの正しい価値、すごさを、私たちはちゃんと理解しなければならない。

だから偉い人なんかがたまに「うちの嫁が~」という言い方をするでしょう。芸人なんかもそう。私はあれにすごく違和感を抱きますね。あんな言い方おかしいでしょう。私は正直いうと、男性よりも女性のほうが実感として、大きな秩序というものを自分の中に持っていると思います。女性のただしい秩序の価値を認識して、男性はそれを尊重して活動する。あるいは、女性の幸福を人間の幸福とする。そういう世界のほうが今よりみんな幸せなんじゃないかな、と思っています。

――土井さんの年代の男性で、そういう感覚を持ってる方は珍しいのでは。

あはは。それは私が世の中のヒエラルキーの世界、ピラミッド型の組織なんかに、1回も参加したことがない人やからだね。いわゆる企業とか社会のヒエラルキーみたいなのは全然参加したことがないんですよ。料理界の中でもある意味で異端児みたいなもんですよ。日本ってヒエラルキーがない自由な世界でこそ力を発揮している人が多いんでしょう? マンガやラーメン、ファッションなんてそう。上から押さえつけられない世界でようやく、自由に才能を発揮できる。

だからこれから新しいことをやろうと思ったら、ピラミッドの隙間を狙うといいですよ。やりたいことが見つかったら、わざわざ人に何かを習いに行かなくていい。とにかく自分で手を動かしてやってみる。新しいもの、すごい発見はそういうところから生まれてくるんじゃないかなあ。

(取材・文:阿部花恵)

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