「うちの嫁が」と言う男性には違和感しかない 土井善晴さんが訴える家の仕事の再認識

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でも仕事って何でもやらされてると思うと苦しいけれども、全部自分の学びになる、役に立つんだという意識でやると全然苦しくない。今だってそうですよ。仕事とプライベートの区別は今もないですもん。雑誌の企画とかも、自分が一番勉強になっている。もしかしたら読者よりも僕のほうが得してるのかもしれない(笑)。

笑顔で仕事を楽しむ土井さんの姿勢は、すばらしい働きかたの見本でもある

家庭料理は日常の中に美を見出す民藝と同じ

――高級料亭の修行を経て、家庭料理の道へ舵を切ったきっかけは?

父の料理学校を手伝ってほしいと言われたことがきっかけです。「味吉兆」にいるときの自分が好きだったし、毎日が面白かったから、本心では「なんで私が家庭料理をせなあかんの」と渋々思いながら帰ったんですよ。その頃の夢はいつかパリで日本料理屋をオープンさせること。世界の美食の舞台であるパリで自分の店を出して勝負をしたい、と思ってましたから。

――自分の中の野心と現実、どんな風に心の折り合いをつけたのでしょう?

当時、京都の美術館やお寺、道具屋をよく見に行っていたんですよ。美術品が好きで、美しいものが見える目になりたいと強く思っていて。

あるとき、河井寛次郎記念館を訪れて、そこで民藝の素晴らしさを実感したんです。日常の正しい暮らしに、おのずから美しいものが生まれてくるという民藝の心に触れたとき、「ああ、これって家庭料理と一緒や、家庭料理は民藝なんや」という確信が初めて持てた。そう捉えたら、「これはやりがいがある世界や」と思えるようになりました。そこから意識が変わっていきましたね。

家庭料理って変化するものなんですよ。何十年も定説になっている伝統と呼ばれるものですら、時代が変われば見直して、疑ってかからないといけない。伝統をただ踏襲することが正しい家庭料理じゃないんですね。

私たちの暮らしの中には全ての原点があって、料理をするということはその要、柱です。食材に触れて、その背景にある自然とつながる。そうすることで自分の中に心の置き場ができるんです。それを無理なく続けるための形が「一汁一菜」だと私は思っています。

暮らしの中にはすべての原点がある、と語る土井さん
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