大学入学前は、数学者になろうと思っていた
今回はまず、世にあまたある職業の一つとしての「経済学者」、この業界のキャリアについて、僕自身を例に書いてみたい(遅ればせながらの自己紹介ということにもなる。読者のみなさんに興味がある話ではないかもしれないけれど……)。同業者や学生さんからは、学者になった経緯を聞かれることも時々あるので、影響を受けた本や人物、もしかしたら参考になるかもしれないことを併せて。
そして次に、いま実際に行われている研究の紹介から、経済学のちょっと意外な一面をお伝えすることもできればと思う。最後までお付き合いいただけたら嬉しい。
僕は大学で教育や研究をする経済学者だ。初めて経済学を勉強したのは、東京大学経済学部でのこと、卒業後2003年にアメリカのハーバード大学大学院に進学し、5年後の2008年に大学院を卒業、2009年まで1年間イェール大学でポスドク、そして2009年からはスタンフォード大学の教員をしている(うち2011~2012年の1年間は「研究休暇」という制度を利用してスタンフォードからお休みをいただきつつ、客員教員としてコロンビア大学にいた)。
大学のときにバイト、大学院のときにインターン(今はなくなってしまったが、Yahoo! Researchという民間の研究所だ)をしたことはあるが、それ以外にはいわゆる「社会人」を一度も経験せず、学者稼業をしていることになる。
なんて書くと、経済学の研究者を長いこと目指してきたのだろう、と思う方もいるかもしれないが、そんなことはなかった。
東大では入学時におおまかに6つのコース(文科1−3類、理科1−3類)に分かれて2年次途中に専攻を決定する。その中で、僕が入学したのは理科1類というコースだった。数学だとか物理だとか工学だとか、いかにも「理系っぽい」ことを専攻する学生を想定したコースだ。
入学前は、数学があまり得意でなかったにもかかわらず、数学者になりたいと思っていた。でも、その志望は大学に入ってみて変わった。
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