そこで、すべてをやり直す狙いで考え出されたのが新大統領令だったのではないか。それには極めて高度な法律テクニックが秘められている。
第一に、最初から差し止め命令が下るのを承知したうえでやった。旧大統領令と骨組みが似ているのは、そのほうが作りやすいからだ。攻撃する側もやりやすい。現に、ホノルル連邦地裁は執行停止命令を下した。トランプ政権側としては、それを待っていたようなものだ。
第二に、新大統領令では“いわゆる裁判官”など悪口はいっさい言わなかった。旧大統領令のままだと、裁判官蔑視、司法妨害などを理由に、トランプ大統領が連邦地裁に召喚されたり、尋問されたり、呼び出されたりする可能性も皆無ではない。ところが、新大統領令を発令し、悪口を封じたことを既成事実化することによって、その可能性をゼロにしたのだ。
第三に、ゴーサッチ氏が最高裁判事に承認されれば、今後も増えかねない連邦地裁や控訴裁による新大統領令の執行停止命令をひっくり返すことができる。三権分立という憲法に違反することなく、大統領府の行政権をフルに発揮することができるようになる。実は、この行政権の拡大、肥大化をトランプ大統領は狙っているとみていい。
絶妙な法律テクニックを指導したのは誰か
その意味で、今回の新大統領令はトランプ大統領の最大の危機を救い、なおかつ行政権の肥大化に一歩踏み出したことになる。この絶妙な法律テクニックをトランプ大統領にアドバイスしたのは誰か。スティーブン・バノン戦略官・上級官か、それとも姉のマリアン・トランプ・バリーか。おそらく控訴裁(高裁)判事のマリアンではないか。
トランプ政権はバノン氏が主導する「行政国家の解体」を推進している。もともと共和党保守派が推進しているディレギュレーション(規制緩和)政策と気脈を通じる。トランプ大統領もバノン氏の政治思想を支持している。むしろそれを利用していると言っていい。トランプ大統領はオバマケア撤廃など行政のスリム化を図る一方で行政権の肥大化をめざしている。大統領令の連発はその表れでもある。
アメリカは徹底した「法律国家」であることを忘れてはいけない。旧大統領令によって混乱が生じたことで、メディアはトランプ政権による政策運営のお粗末さをしきりに批判している。にもかかわらず、ニューヨーク株式市場は最高値を更新するなど活況を呈している。アメリカの法律を熟知しているウォール街は、このトランプ大統領の高度な法律テクニックにもしっかり目を光らせている。そうでなければ、ウォール街の連日の高値更新などあり得ない。
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