トランプ「新大統領令」の真の狙いは何なのか

秘められた高度な法律テクニック

1月20日に大統領に就任し、その1週間後に署名した大統領令に差し止め命令が下ったとき、トランプ大統領は激怒し、執行停止の仮処分を出したシアトル連邦地裁の判事のことを“いわゆる裁判官”と軽蔑的な発言をして揶揄した。口の悪いのはトランプ氏の本性のようなものだが、行政トップの大統領が裁判官を見下すような発言は、三権分立の精神に反しているから好ましくない。憲法違反の圧力行為とのそしりさえ免れない。最高裁に上告して勝負するどころの話ではない。

折しも最高裁判事は定員9人のところ1人空席で8人。リベラル派、保守派が4人ずつの拮抗状態となっている。トランプ大統領令の法的正当性が最高裁で認められるためには、空席を1人埋めて9人定員制に戻し、そのうち判事5人以上の票を確保する必要がある。1月31日、トランプ大統領は空席となっている判事に保守派のニール・ゴーサッチ氏を指名した。同氏は49歳と若く、保守派でありながら、リベラルなメディアにも一定の評価がある。

最高裁判事に就任するには議会上院の承認を必要とする。民主党は保守的に過ぎるとみられる候補については承認を拒否する構えだ。いずれにしても難航しそうだ。そんな難航が予想される指名承認を控えてとんでもない事態が起こった。トランプ大統領の“いわゆる裁判官”発言について民主党の上院議員との会談において問われたゴーサッチ氏は、「がっかりした」とか「やる気を失わせる」と言ってトランプ氏を批判するような発言をし、メディアで全米に大きく報じられた。

それは、指名候補者でありながら、恩のある大統領に対して政治的に牙をむくようなことだ。指名されてまだ承認を得ていない段階で、恩を仇で返すような、マスコミをも当然意識した批判をするというのは、アメリカの歴史を振り返っても、よほどのことでない限りあり得ない、極めて珍しいことだ。いったい、なぜそんなおかしなことになったのか。

秘められた高度な法律テクニック

この事態は、トランプ大統領の“いわゆる裁判官”という侮辱的な発言によって、トランプ大統領の法的立場が不利になっていることを示している。大統領令に対して憲法違反の判断はまだ下っていないが、その一方でシアトル連邦地裁の差し止め命令の仮処分が正しいのかどうか。

シアトル連邦地裁では、実は旧入国禁止令に関する違憲審査の本裁判の開始が秒読み段階に入っていた。原告のファーガソン・ワシントン州司法長官が被告の大統領と司法省に対して、司法の独立、三権分立の保障を盾にして違憲裁判に訴える。裁判官を侮辱したこと、ないし司法妨害の嫌疑で大統領に対して召喚状での出頭を要請する、という驚愕すべき筋書きがあったのだ。

ファーガソン長官は今回の大統領令に対して原告としてトランプ大統領と司法省を訴え、大統領を法廷に喚問するかどうかを問われて「わからない」と答えている。否定はしていない。もし、そんなことになったらトランプ大統領のメンツはまるつぶれだ。

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