「尾崎牛」のグローバル化が映す和牛の危機

価格高騰と飼育者減の間で悩む

状況を整理しましょう。

(1)肉用子牛「黒毛和種」の肉用子牛の平均売買価格は、2012年度と2016年度を比較すると、価格が2倍弱にハネ上がっています。

(2)肉用牛飼育戸数は、1996年→2016年の20年間で3分の1に大幅減少しています。

(3)肉用牛を産む肉用牛の雌牛がピークの2010年→2016年で14%減少しています。

尾崎牛のような肥育農家が肉用子牛を購入し、実際に販売するまでに一般的に2年の歳月がかかるといわれています。

和牛経営を次世代につなぐためには

上記3つの要因から、子牛の売買価格が上昇しても肉用牛飼育戸数が減少し、母牛も減少している以上、考えられるのはさらに価格を高騰させ続けないとビジネスが成立しなくなるということです。和牛ビジネス、和牛経営を次世代につなぐためには現時点でも子牛の価格がさらに向上しないと次世代の畜産農家がやっていけないし、後継ぎがいない状況が継続することになります。

肉用牛飼育戸数が減少することは、そもそも子牛の生産の減少を意味します。さらなる現象を食い止めるためには和牛の価値を向上させることしかありません。つまり、子牛の価値をおカネに換えるしかないのです。

和牛が世界にもっと出れば…(写真:筆者撮影)

和牛の価値向上によるグローバル化ということは、これまで日本人1億2000万人で食していた和牛の価値を高め、これからは世界の75億人へ向けての市場、ビジネスに拡大していくことになります。「『食べ続けると痩せる肉』の知られざる正体」(2017年1月18日配信)でも解説しましたが、海外で牛肉といえば、まだまだ牧草飼育牛が主流で、霜降り和牛に出合う機会も多くありません。和牛が世界にもっと出れば、芸術的な霜降り具合、食感、脂、軟らかさに感動を覚える人が多く存在すると考えられ、マーケットも拡大していきます。

世界のごちそうとしてグローバル化を進めざるをえない状況(写真:筆者撮影)

尾崎氏は国内でさらに価値が向上し、子牛の価格をさらに向上できれば、国内に販路拡大したいと考えています。ただ、国内市場に拡大余地がなくなれば、これからマーケットを海外にどんどんシフトしていくしかありません。尾崎牛はその急先鋒として、国内でこれ以上、価値が向上しづらい状況を想定したうえで、価値の理解が進む、海外輸出国拡大を急務としているわけです。

今の状況で価値を高めなければ成立しない以上、和牛は世界のごちそうとしてグローバル化を進めざるをえないでしょう。日本産和牛は世界に冠たるレベルを維持していますが、一方で黒毛和牛の種をブラックアンガス種に植え付けた「オーストラリア和牛」等、国家を挙げてプロモーション展開するライバルも存在してきています。グローバル化の遅れにより、みすみす市場を取られるわけにはいきません。

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