「自分さえ我慢すれば」を続けると起こる悲劇 表に出さない感情は、そのうち退化する?

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今、自分の気持ちをきちんととらえられているという自覚はありますか?
ちょっとしたチェックで確かめてみましょう。用意するものは、紙と筆記用具、もしくは、スマホのメモ機能でも結構です。

人の気持ちを大きく分類すると、喜怒哀楽という4つの気持ちになります。その喜怒哀楽それぞれについて、思い浮かぶエピソードをメモしてみてください。思い浮かぶものから書き始め、短い箇条書きで結構です。制限時間は、2分です。

すべての感情について、すぐに思いついて、すらすらと記入できた方は、比較的、自分の気持ちを把握できている方です。しかし、なかなか思い浮かばない、もしくは、1つくらいしか書けなかった方は、かなり自分の気持ちをなおざりにしている傾向があるでしょう。書けなかった感情や書きにくかった感情は、自分の中で認めにくい感情です。

人間は、生まれたときは喜怒哀楽の感情を等しくもっているのですが、その後の周囲からのメッセージをとおして、感情をセーブすることを覚えていきます。たとえば「男なんだから、泣くんじゃない」というメッセージを受け続ければ、哀しいという感情を感じにくくなり、「お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい」というメッセージを受け続ければ、「聞き分けが良くなくてはいけない」という意識が強まるために、怒りの感情を受け止めにくくなります。そのような状況にあると、怒りを感じる状況下であっても、「このくらいのことで怒りを感じる自分はダメだ」とさらに自分の中で感情の抑え込みを始めます。

受け止められないということは、理不尽な状況下にあっても怒りをあまり感じないということに繋がります。しかし、実際に精神的ダメージを受けていることに変わりはなく、限界になってからようやく自分が傷ついていたことに気づきます。そこまでいってしまうと、取り返しがつかなくなる場合もあるのです。日々の中で小さなリカバリーをしていくためにも、自分の心の状態を把握することは大切です。

「むかつく」と思うだけなら、なんの害もない

では、見失っている自分の気持ちを取り戻すためにどうすればいいのでしょうか。まずは、湧き上がってきた気持ちを否定しないことです。「嫌なら嫌」「好きなら好き」と感じた気持ちをそのまま受け止めること。「こんな気持ちになってはいけない」「こんなことを考えてはいけない」「こんな気持ち早く忘れてしまいたい」このような気持ちは、さらに自分の気持ちを抑え込み、さらには、ますますその感情を抑え込むことに囚われる「強化」という状況を引き起こす危険性があります。

かといって、腹が立ってむかつく相手を殴ってしまっては社会的な立場が危うくなりますが、心の中で「むかつく、むかつく」と思っているだけなら、だれにも迷惑は掛かりません。嫌な記憶はなくなりませんが、自分の本来の思いと向き合うことで「ま、いいかな」と、気持ちを受け入れられる回復状態への早道にもなります。大切なのは、恐れずに自分の気持ちと対峙することです。

日常生活で実践できる簡単なトレーニングとしては、嬉しいことがあれば「あ、今自分は、嬉しい気持ちになっている」、悲しいことがあれば「自分は、とても悲しい気持ちにどう対処していいかわからない」というように、自分で自分の気持ちを意識して把握することです。この繰り返しによって自分の心の動きが徐々につかめるようになってきます。

会社の行き帰りの電車の中では、スマホの画面だけを見ずに、自分の心を見る時間も作っていただけたらと思います。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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