原発で致命的な誤算、東芝の「失われた10年」 お手盛り調査で問題発覚を先送り
その一方で、畠沢氏は、WHがS&Wを買収しなかった場合、そうしたコスト増は工事を発注した電力会社側が負担していたとの認識を会見で示した。
ではなぜS&Wを買収したのか。畠沢氏は、「(S&WをWHに売却した)CB&Iの財務諸表や資料を見て、それを信じて判断した」と述べただけで、買収の経緯をめぐる不透明感は払拭しきれていない。
東芝は一昨年春に不正会計問題が発覚。2008年度から14年度までの7年間の累計で、利益のかさ上げ額は2306億円に上った。
この問題について、東芝が委嘱した第三者委員会は15年7月に公表した報告書で、組み立て業者に部品を売って完成品を買い戻すパソコン事業での「バイセル取引」など、利益操作を行った不正の実態を解明した。
ただ、同報告書は、減損リスクが指摘されていたWH買収に伴う巨額ののれん(当時は約3500億円)の問題には切り込んでいない。
WHでは12年度と13年度にわたり約1150億円の減損損失を実施していながら、東芝連結決算には反映させていなかった。この不可解な決算処理は、第三者委員会の報告書発表の後に表面化している。
原発、不正会計問題の「本丸」か
会計評論家の細野祐二氏は、ロイターの取材で「(東芝の一部の経営陣にとって)バイセル取引などの問題は(発覚しても)怖くない。本当に怖いことは、ウエスチングハウスの巨額ののれんの問題だった」と指摘する。
東芝は、15年度にWHを含む原子力事業で約2500億円の減損を実施。その理由は、不正会計問題に伴う業績の大幅悪化で財務体質が悪化、資金調達が不利になったためと説明し、原発事業の不振によるものとの見方を否定した。
とはいえ、世界の原発建設は、11年3月に発生した福島第1原発事故を契機に逆風が吹いている。欧米を中心に安全規制が強化された結果、プラントの製造や建設・据え付けコストが急上昇し、従来、4000億円から5000億円だった1基当たりの総工費の相場は1兆円規模に膨らんだとされる。
月刊誌などで東芝の不正会計問題を追及してきた細野氏は、過去の東芝の一部の経営陣について、「米国の原発プロジェクトで追加原価がどんどん出ていて、(S&Wの)のれんに価値がないことを知っていたはず」との見方を示した。そのうえで同氏は東芝の不正会計問題について「原発が本丸だ」と指摘した。