『海辺のカフカ』(2002年刊)には、ルービンシュタイン(ピアノ)、ハイフェッツ(バイオリン)&フォイアマン(チェロ)によるいわゆる“百万ドルトリオ”のベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第7番『大公』」が登場する。これらのチョイスはどれもこれも玄人ウケするすばらしさだ。
もちろん紹介した楽曲は全体の中のほんの一部で、それ以外にも個々の作品のあちらこちらに音楽が散りばめられている。こうして村上春樹作品一覧と登場するクラシック楽曲の推移を眺めていると、音楽、特にクラシックの比重が加速度的に大きくなっているように思えてうれしくなる。
小説以外にも興味深い本が・・・
さて、小説以外に目を移してみると、ここにも興味深い本が存在する。音楽好きの方にぜひお薦めしたいのが『意味がなければスイングはない』(2005年刊)。これは季刊オーディオ専門誌『ステレオサウンド』に連載された文章をまとめたもので、ジャズからポップス&クラシックに至る10篇の音楽エッセーが楽しめる。
そしてその中の3篇がクラシックというのもうれしい限りだ。内訳は「シューベルト『ピアノ・ソナタ第17番ニ長調』D.850~ソフトな混沌の今日性」「ゼルキンとルービンシュタイン〜二人のピアニスト」「日曜日の朝のフランシス・プーランク」。タイトルを見ただけで思わず手が伸びそうになるあたりはさすがとしか言いようがない。しかもその中身は決して音楽評論家には書き得ない、音楽愛好家目線の文章であることがとても面白く興味深い。音楽を聴く気にさせる文章とはまさにこのことだろうと納得させられる。
さらには村上春樹とクラシックの結びつきを象徴する1冊が『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(2011年刊)。これは対話の形をした理想のインタビューであり、村上春樹のクラシックに関する造詣の深さに驚かされる1冊でもある。内容に即した音楽を収録した3枚組のCD「『小澤征爾さんと、音楽について話をする』で聴いたクラシック」も発売になっているので“読みながら聴く”というすてきな時間をぜひご体験あれ。
というわけで、駆け足でたどった村上春樹のクラシック。ここを入り口にクラシック音楽にハマるのも悪くない選択だ。そしてまもなく発売される村上春樹4年ぶりの新作長編小説『騎士団長殺し』。ここにクラシック音楽は登場するや否や!? それが問題だ。
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