働かせ放題の「みなし残業」など存在しない 超過分の残業代を支払っていない企業は多い

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裁量労働制の場合は、その業務の性質から、仕事のやり方も時間管理も個人の裁量に任されています。仮に1日9時間働いたものとみなす、とした場合、実際の労働時間が5時間であっても10時間であっても、「9時間」として処理されます。

みなし労働でも、休日・深夜の割増賃金は適用される

ただし、誤解してはいけないのは、みなし労働時間制が適用される場合でも、休憩、休日、深夜業に関する労働基準法の規定は適用されるということです。休日労働や深夜労働があれば、割増賃金を支払う必要があります。

また、1日9時間働くものとみなす場合には、法定労働時間の8時間を超えるため、別途1時間分の残業代を支払わなければなりません。ただ、これを定額で手当として支給している会社は多いのが実態です。

かねてから、この裁量労働制が長時間労働の温床になっている、という問題が指摘されています。また、実際に働いている時間と、みなし労働時間が大きくかけ離れ、実質的な労働対価に見合っていない、という声もあります。一方、裁量労働制には、出退勤の拘束を受けず、自分のペースで自由に働けるといったメリットもあります。職場によっては、これが効率的な働き方として機能するといえましょう。

以上のように、「みなし」という言葉は同じでも、「みなし残業(いわゆる定額残業制)」と「みなし労働時間制」はまったく異なる制度です。本当はみなし残業で働いているにもかかわらず、裁量労働制だと誤解されて、「いくら働いても残業代が増えない」ことに甘んじている方もいるかもしれません。

定額残業制であれば、事前に取り決めている一定の残業時間を超えて働いた場合は、追加で残業代をもらうことができます。定額残業の基準時間は、会社によってそれぞれですが、法定労働時間を超えて働くことができる限度時間は1カ月に45時間となっており、この範囲内で設定されている企業が多いといえます。

裁量労働制であれば、所定労働時間働いたものとみなす制度なので、勤務日にいくら働いたとしても、残業代が増えることはありません。もし、みなし労働時間と、日々の実際の労働時間が恒常的にかけ離れている場合は、そもそも労使協定等の内容が適正であるか、労使で協議をして見直すのもひとつの方法です。

自分がどのような労働契約で働いているか、就業規則等を含めて内容を知っておくことは、働き続けるうえでとても重要です。自分の会社の制度運用に対するあいまいな理解で不利益を被ることがないよう、しっかり把握しておきましょう。

佐佐木 由美子 人事労務コンサルタント/社会保険労務士

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ささき ゆみこ / Yumiko Sasaki

グレース・パートナーズ株式会社 代表取締役。アメリカ企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。著書に『採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本』をはじめ、新聞・雑誌等多方面で活躍。グレース・パートナーズ株式会社の公式サイトはこちら

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