しかし、実態としては「みなし残業」の名のもとに、労働時間を管理せず、いくら残業しても給与に反映されない職場があるのではないでしょうか。
そして、この定額残業代と似て非なるものが、みなし労働時間制です。労働時間を計算するうえで、実際に働いた労働時間ではなく、所定労働時間または業務に通常必要とされる時間を働いたものとみなす制度をいいます。現在、法律で認められているものは、「事業場外労働制」と「裁量労働制」の2つです。
事業場外労働制は、社外で働き、そのため使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が難しい場合が対象となります。たとえば、直行直帰で営業活動を行っているような外勤営業社員をイメージしていただけると、わかりやすいでしょう。
これは社外で働いていたとしても、随時指示を受けながら働いているような場合や、複数で活動していて、その中に労働時間の管理ができる人がいるような場合は対象となりません。本来であれば労働時間を把握できるにもかかわらず、単に把握していなかったという実態から、労働時間の算定が困難であるという主張も、認められません。
裁量労働制には、「専門業務型」と「企画業務型」の2種類があります。専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務のみが対象となります。労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることにより、協定で定めた時間の労働をしたものとみなされます。
「専門業務型裁量労働」ができるのは19業務のみ
専門業務型裁量労働制を採用できるのは、法令で定められた19の専門業務のみ。たとえば、情報処理システムの分析・設計、衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新デザイン考案、ゲーム用ソフトウエアの創作、証券アナリスト、弁護士、建築士などの専門業務などが挙げられます。
つまり、専門的な職業で裁量的に働いていたとしても、そもそも法令に定められた対象業務でなければ、専門業務型裁量労働制を採用することができないのです。この点は、注意したいところです。
企画業務型は、事業運営上の重要な決定が行われる本社などにおいて、企画、立案、調査、分析業務を自律的に行える一定のスキル・経験のある人が対象とされます。導入には労使委員会で決議し、労働基準監督署に届け出が必要で、その決議で定めた時間がみなし労働時間とされるものです。
この裁量労働制が採用されている職場は、決して多くありません。厚生労働省の調査では、みなし労働時間制を採用している企業割合は13.0%。これを種類別(複数回答)にみると、「事業場外労働制」が11.3%、「専門業務型裁量労働制」が2.3%、「企画業務型裁量労働制」が0.6%と、極めて限られた職場のみに認められた制度であることがわかります(平成27年「就労条件総合調査」)。
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