具体的には、昨年の第3、4四半期のGDP(国内総生産)はまずまず好調だし、何と言っても雇用が改善している。加えて、物価も昨年12月のCPI(消費者物価指数)は対前年比で+2.1%と、居心地のいい状態にある。後付け的な説明で恐縮だが、トランプ氏が勝っていなくても、株価は上昇していた可能性が大きい。また、当面、トランプ騎手は、馬(米経済)の鼻先にニンジン(法人税減税)と尻にムチ(インフラ投資の財政支出)を使う構えなので、馬はもうしばらくいいペースで走る可能性が大きい。
リスクはあっても、やっぱり少しは「馬券」を持つべき
しかし、もう少し時間を進めると、入国拒否などは後の裁決で処分を食う可能性があるし、物・人両面の保護主義は長期的に馬が食う飼い葉を少なくする可能性がある。
具体的には、特定国からの輸入に対する高関税は、米国内の競合産業を少々保護するが、消費者や輸入原料・部品などに依存していた生産者の経済厚生を損ね、トータルでは米経済の損になる。消費者が高い国内製品を買わざる得なくなると、それ以外の物を買うおカネが減るのであるから、国内の別の産業はデメリットを受けるといった具合だ。また、人の移動の自由を制限すると、米国企業が海外の優秀な人材を使う上での障害となり、これも長期的には米国経済の利益にならない。
もっとも、幸か不幸か、こうした「トランプの弊害」が経済に大きく表れるまでには、1、2年以上の時間が掛かりそうだ。それ以前に、馬が走るペースが速い場合、FRB(米連邦準備制度理事会)が、いわばレースの最中に、騎手も含めた斤量を増量するような形で利上げを行うことになるから、「馬」は遠からずスタミナ切れする心配がある。
そして、脚色が鈍って見えた時には馬券の人気(米国の株価と考えて良かろう)が急落する場面があっておかしくない。 また、馬券を買う側では、トランプ騎手が落馬する(=政治的に失脚する)リスクも相当程度考えておく必要がある。
この奇妙な競馬の、一つの救いは、レース中に馬券(株式)を売ることもできるところだ。しかし、長期的な株式投資にあって、大きなリターンが得られるのは実はごく少数の取引日であることが知られている。
例えば、素晴らしく順調に見える米国株式の過去10年でも値上がり率上位の取引日20日程度を除いてしまうと、投資の成果にほとんどプラスは生じない。トランプラリーでまさに経験したように、「その日」がいつ来るのかは分からないので、神のような予測力を持たない普通の投資家は、じっと株式を持ち続けるしかない。
トランプ騎手は明らかに危険な騎乗をするリスクの高い騎手だが、馬のしぶとさと底力を考えると、馬券(株式)はそこそこに持っておくべきだ。ただし、「自分が負担できるリスク」については、あらためて点検しておくべきだろう。リスクはやや控え目に、しかし、投資はしぶとく継続しようというのが、投資家にとってはおおよそ無難な結論だ。
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