その昔、筆者がワシントンに居た25年くらい前の話である。アメリカ経済は自信喪失気味で、「冷戦には勝ったが、真の勝利者は日本だった」てなことが真面目に語られていた。ジャパン・バッシングも賑やかで、「日本は溜め込んだ貿易黒字でアメリカの資産を買い漁っている」「日本市場は非関税障壁が多くて不公正である」といった議論が盛んであった。
アメリカの「ケイレツ」問題への視点は正しかったのか
当時、筆者が在籍していたブルッキングス研究所では、ロバート・ローレンス主任研究員が「ケイレツ」問題を研究テーマに取り上げた。いわく、日本企業は系列取引を行っているから、海外製品が輸入されにくくなっている。ローレンス氏は、日本の系列取引をトヨタなどの「垂直型」と三菱グループのような「水平型」に分類し、それぞれの輸入浸透度を調べあげた。前者はハッキリと有罪、後者はやや有罪という結果が出た。
いわゆる「日本異質論」の走りであった。日本経済が上手くやっているのは、自分たちとは違う資本主義だからだというのである。もっともこの研究が発表されたとき、ワシントン在住の日本人たちは、「あれは言いがかりだよなあ」と嘆いたものである。
実際にローレンス氏をつかまえて話してみると、彼は日本の企業グループに「財閥系」と「非財閥系」があることさえ知らなかった。いや、日本の「ケイレツ」は歴史に裏付けられた合理的な存在であって、別段、海外製品を拒絶するような邪悪な意図があるわけじゃないですよ、てなことを説明した覚えがある。が、ローレンス氏の次の質問に対しては、沈黙せざるを得なかった。
「では聞くけど、系列取引というのは、日本の消費者の利益になっているのかね?」
ギクッ、である。その頃の日本では「三菱グループの会合ではビールはキリンでなければならない」みたいな慣行がまかり通っていた。それは明らかに企業のワガママが個人の選択肢を制限する行為であって、お世辞にも褒められた話ではない。アメリカ側の指摘に反論しながらも、内心では「確かに日本は変だわなあ」と一抹のやましさを感じていたものである。
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