●業界研究の軸
では、その俯瞰的な業界研究の軸となるものは何か。軸とは決してぶれない指針、つまりどんな業界でも直面している日本経済の課題と言い換えてもよい。
ざっとあげるだけでも、
・若年労働人口の減少、進む高齢化
→労働市場の変化
・国の活力維持のために進む国内での国際化
→活力ある労働市場を維持するため、政府は留学生30万人計画や看護師や介護士といった高度人材の受け入れを検討
・労働市場を維持していくための女性の社会復帰、活用、高齢者の戦力化
→ワークライフバランスの充実
・1バレル200ドルが視野に入った原油高
→企業の収益を圧迫、価格転嫁ができる業界とできない業界で収益体質に差が
・化石燃料に依存しない環境配慮型のエネルギー開発
→原油高騰、将来的な環境税・炭素税などの導入により化石燃料のコストアップ、エネルギー転換がさらに進む
などがすぐに頭に浮かぶ。
現在の日本経済を取り巻く課題に業界や企業が前向きに取り組んでいるかいないか、ということは将来大きな差になって表れる。
余談になるが、筆者の知り合いに工学部の土木学科を卒業後、ダム建設にかかわりたくてゼネコンを志望、入社した技術者がいる。彼は言う。
「入社当時は大小あわせて全国に30カ所くらいの現場がありました。技術屋として現場は選び放題、きつい仕事もありましたけど、そりゃ楽しかったです。しかし、今、ダム建設の現場数は片手にも満たない。やりたい仕事がはっきりしているのですが、市場や現場がないんですよ」
公共工事の削減が進んだ結果、国内のダム工事は激減。彼が入社したゼネコンは海外進出も思うように進まず、「入社して本当にやりたいことができなかったとは言わないが、何か不完全燃焼なんですね」と語る結果になったのだ。
20数年前に、公共工事が毎年3%ずつ削減される世の中を予測して就職活動をすべきだったというのは無理難題であろう。しかし、例えばダム建設に固執せず、"ダムも含む海外での現地プロジェクトの展開"という視点が業界研究にあれば、彼自身やりたいことが明確だっただけに、プラントメーカーなどゼネコンとは異なる選択肢が見いだせたかもしれない。
世界的な食糧インフレの兆候がみられる今、自国の民の食糧確保を優先しようとする動きに対し、日本の食料自給率はわずか40%に満たない。また、輸入食品の安全性が不安視され、政府は消費者庁の設立を決定した。
そうした動きの一方で、鉄鋼メーカーや石油元売り会社が遊休施設を活用して生鮮野菜の完全無農薬栽培や高級魚介類の養殖といった事業を軌道に乗せ始めている。
重厚長大産業の持つ巨大な遊休資産が食品ビジネスと結びついたというわけだ。
企業は常に変わろうとしている、皆さんの就職活動中に大きな変革はなくても、10年後に市場で生き残っていれ ば、その企業は間違いなく変革しているはずだ。
企業は従来の業界の枠を超えて「新たな価値」を創りだそうとしている。ぶれない軸を持ち大局的な視点で業界研究に取り組んでほしいと思う。
採用プロドットコム株式会社 企画制作部 シニアディレクター
1988年関西学院大経済学部卒。大手就職情報会社で営業、企画部門で主にメーカーの採用戦略をサポート。その後、全国の自治体の地域振興に関る各種施策や計画書の策定業務に携わり、2000年から再び企業の採用支援業務に取り組む。08年4月より現職。
採用プロドットコム株式会社 https://saiyopro.com/
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら