「抗議行動」ではポピュリズムに対抗できない トランプ時代に光明を見出すには何が必要か

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外交政策にも楽観は許されない。トランプ氏はNATO(北大西洋条約機構)や東アジアでの米国による安全保障への無関心をあらわにしている。同氏の当選はパックス・アメリカーナ(米国による平和)体制をこれまで以上に弱体化させるだろう。米国が同盟国の安全を保障しなければ、戦後に設立された国際機関が長続きすることは不可能だ。

一方で、韓国だけでなく、欧州や日本も米国の軍事的保護に頼りすぎている。トランプ氏の「米国第一」主義が欧州や東アジアに変革を迫り、自衛努力を強化させることはありうる。

ただし欧州の人々は自衛のために高い税金を納めることに乗り気でなく、ドイツには軍事同盟を結成する義務も意志もない。アジア人の多くはNATOのような軍事同盟構築に積極的ではない。

日本は安倍晋三首相のもとで、米国への全面的依存から脱する第一歩として、平和主義憲法の改正を模索している。しかし、安倍首相の改革は、歴史的な残虐行為を正当化しがちな民族主義イデオロギーに根ざしている。これだけでは、日本が軍事面で他国の先頭に立つことはできないだろう。

ロシアと中国の出方も楽観できない

トランプ氏の当選は地震のように、米国が戦後構築した国際秩序を揺るがしている。同氏の無関心は、日本が責任ある集団的な安全保障体制を構築するのではなく、日本のナショナリストを利することにつながりかねない。欧州でもポピュリストを後押しする結果となっている。

逆に自信を深めているのがロシアと中国だ。トランプ氏の当選は両国にとって朗報である。米国によるリーダーシップと同盟国との連携が骨抜きになれば、ロシアと中国の野心を抑える手段が減ってしまう。

両国が今後数年間で一気に軍事的な冒険に出る可能性は低い。それでも楽観はできない状況にある。ロシアはウクライナからバルト三国へ、中国は南シナ海から台湾といった形で、限界に挑みながらじわじわと進出してくるだろう。最終的には大きな戦争につながることもあり得るのだ。

週刊東洋経済1月28日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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