「仕事一筋」パパが妻を亡くして直面したこと 「育児は母」前提の社会が父子家庭を苦しめる

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そうして2人の生活が軌道に乗り始め、娘が高校3年生になったとき、思わぬ事態に直面しました。離婚した妻が亡くなったのです。理由は、餓死という信じがたいものでした。ショックを受けた浩志さんは、自暴自棄になって貯金を使い果たしてしまいました。「おカネがなくなっても死ねばいい、くらいに思っていたんです」(同)。

そんな状態の浩志さんを現実に引き戻してくれたのは、娘さんでした。「娘が有名美大の推薦枠に合格し、『この子を大学にいかせねば!』と、ハッとしたんです。自分はどうなってもいいが、娘には将来があります。そこで、自分から営業をかけて、ライターとして必死に働き始めました。『娘を大学に行かせねばならない。だから仕事をください』と頭を下げ続けると、仕事が舞い込んできました」(同)。

こうして必死に育て上げた娘さんは、無事に大学を卒業。今では結婚もしています。子育てを終えた浩志さんが今、これまでを振り返って感じることとは。

「父親だって、子どもを育てられると主張したい」

「自分ではわかりませんが、世間から見るとわが家はうまくいっているようです。それは、自分が時間の融通が利く自営業だったからかもしれません。家庭裁判所の判決では悔しい思いをしましたが、父親だって、育児環境や働き方さえ確立すれば、子どもは十分に育てられる、ということを主張したいです」(同)。

今回の取材を終えてわかったのは、「育児は母親、仕事は父親」という固定観念が、シングルファザーにとって大きな壁になっているということです。冒頭で述べたように、「ひとり親」という言葉からイメージされるのは、あくまでシングルマザーで、その数が多いのも事実です。

それまでどんなに仕事一筋だった父親でも、ひとり親になることで「子ども優先」の生活に切り替えて、四苦八苦しながら家事や育児に力を注ぎます。

しかし、学校行事やPTAなどの活動は、あくまでフルタイムで働いていない母親の参加を前提にしたものが少なくありません。父子家庭の場合に限らず、共働きの家庭も増えてきた今、そろそろこうした子育てモデルから卒業することが必要なのかもしれません。

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