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賛否両論の平和論、その現代への教訓/E.H.カー『平和の条件』を読む(下) 1940年代の時代描写が驚くほど現代社会にも当てはまる。

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『平和の条件』E. H. カー著
E. H. カー『平和の条件』中村研一 訳/岩波文庫

なぜ19世紀の世界は壊れたのか。カーはその背後に、自由民主主義・民族自決原則・レッセフェール経済の是非をめぐる大国間の対立をみた。カーの考察の要旨は次の3点だ。

カーの考察の要旨

第1に、最大多数者が自らの利益のために政府機関を統制する民主主義は、20世紀に入り普通選挙が行われるようになったことで、大衆を基盤としつつも実際には経済権力主導となった。これは、国家に対する共通の義務感や道徳を喪失させた。

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第2に、民族自決が重視された結果、国々は細分化され、各地で紛争が起こった。だが民族の定義はあいまいで、西欧以外において民族=国家の図式がすんなり成立するわけでもない。また、国際社会では強国の主張が通りやすい。とくに戦争時には、小国同士が集まる集団安全保障は維持困難で、小国は強国に従属して生存を図らざるをえない。だから、軍事的・経済的目的のためには国家よりも大きな単位が必要で、民族自決の権利は、軍事的・経済的義務の相互分担の枠内で初めて有効になる。

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