
オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』佐々木 孝 訳/岩波文庫
哲学者・オルテガは、ジャーナリスト一族に出自を持ち「輪転機の上に生まれた」といわれた。そんな彼が本書を上梓したのは1930年。ファシズムが台頭して欧州が風雲急を告げ出し、祖国スペインも共和制革命から内戦に向かうとば口に立っていた時代だ。
今もまた、世界の主要国は右派ポピュリズムの波に揺さぶられ、世情は30年代に似通う。当時のオルテガが新聞連載で時代と格闘するようにして紡いだ言葉は、今日どんな意味を持つだろうか。
『大衆の反逆』というタイトルから、「トランプ現象」のようなポピュリズムを批判対象にした本だと取る人がいるかもしれない。ただオルテガの批判する「大衆」は複雑な意味を持っており、今トランプ現象に軽蔑の目を向け紋切り型の批判を繰り返すような知識人にも向けられている。
本書は一種の19世紀論でもある。「人間という種を自由主義的デモクラシーと技術という二つの原理による操作に委ねる条件下で」欧州の人口は19世紀の間に一挙に1億8000万人から4億6000万人に膨らんだ。そこから大衆化社会が生まれ、「大衆が完全に社会的権力の前面に躍り出」る。それを「大衆の反逆」と呼んだ。
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