「仕事一筋」パパが妻を亡くして直面したこと 「育児は母」前提の社会が父子家庭を苦しめる

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「テレビを見るヒマすらなく、自家用車も試乗せずにインターネットで買った」という嵐のような毎日を過ごす中、唯一の楽しみは、土曜日の夕食の仕込みが終わってからの1時間、近所の居酒屋でタイムサービスのビールを飲んでぼーっとすることでした。

父子で暮らし始めて3年が経ったころ、会社から「本部長として東京本社に戻ってこないか」という昇格の打診がありました。妻の闘病を理由に地元栃木の営業所に異動したときは、「まるで都落ちしたような、複雑な心境だった」という昭夫さんにとって、願ってもないチャンスでした。

けれども当時、娘はちょうど高校受験前。転勤についてきてもらうことはできません。そこで自宅に亡き妻の両親を呼び寄せ、自分は東京で単身赴任することにしました。

これでひと安心、と思いきや、今度は子どもを預けた義母が倒れてしまいます。子育てを義理の両親に頼むこともできなくなった昭夫さんが始めたのは、「平日は都内で会社員」「週末は地元栃木で主夫」という生活です。食べ盛り、育ち盛りの子どもたちのため、週末に栃木に帰ると、1週間分の家事を一気にこなします。食事は、生協の宅配サービスをフル活用し、レンジでチンすれば食べられる状態まで仕込み、毎日のお弁当も「あとは詰めるだけ」にします。そうして、平日には再び都内に舞い戻るのです。

こうした綱渡りの日々をどうにか回すだけでもいっぱいいっぱいのはずですが、加えて学校でのルールや親のコミュニティがさらに負担をかけます。「特に苦労したのが娘の部活のお弁当でした。当時、部活の顧問の先生の方針で『買い弁(外で買うお弁当)禁止』だったのです。『なぜ?うちみたいな家庭もあるのに、それってないよね?』と、怒りすら覚えましたが、仕方ありません。何とか対処しました」(昭夫さん)。

PTA総会では「絶対に当たらないでくれ」と冷や汗

さらに、「毎回、冷や汗をかいたのはPTA総会です。抽選でいや応なくPTAの役割が決まってしまうので、いつも『絶対に当たらないでくれ』と祈るばかり。『交通安全母の会』というものがあり、自分にも役が回ってきて、やらざるをえない。平日の朝の8時前後、出社前に参加しました。周りはみな母親ばかりで完全なるアウェー状態。かといって事情を話すのも面倒で、隅っこで縮こまっていました」(同)。

そんな昭夫さんを助けてくれたのは、意外にも「ママ友」たちでした。「子どもたちの様子も心配だったので、恐る恐る妻の友達ネットワークだった『ママ友の飲み会』に参加してみたんです。子どもたちの状況を教えてほしいと頼むと『学校ではこんなふうに頑張っているのよ』という話を聞けたんです。正直、居心地はよくありませんでしたが(笑)、情報収集ができて安心しました」(同)。

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