筆者がプラハでコメンスキー福音主義神学大学のミラン・オポチェンスキー教授と初めて会ったのは1988年3月のことだった。ミランからはチェコの教会とプロテスタント神学の状況について、さまざまな話を聞いた。また、数名の神学生を紹介してもらった。
チェコの神学はヨゼフ・ルクル・フロマートカの伝統を継承している。労働者階級・農民の解放、搾取の根絶という社会主義的価値観を認めたうえで、社会の民主化に貢献していくためキリスト教徒が積極的に奉仕するという方向性だ。そしてキリスト教徒とマルクス主義者が誠実に対話すれば、マルクス主義者もキリスト教に対する姿勢を改めると考えた。
フロマートカは47年に亡命先のアメリカからチェコスロバキアに帰国した時点からこの考えを持っていた。チェコスロバキア共産党は48年2月に国内政争を巧みに利用し無血クーデターを起こした(2月事件)。その後4~5年間は、チェコスロバキアはソ連とは異なる社会主義化を志向していた。
フロマートカをはじめプロテスタント教会の中にはナチス・ドイツへの抵抗運動をしてきた人が少なからずいたので、共産党も教会を弾圧しなかった。この頃は聖書や神学書も自由に読むことができた。第2次世界大戦でナチス・ドイツの占領と戦った共通の記憶が、共産主義者とキリスト教徒を結び付けた。しかし、この状況は52~53年ごろから変化し始めた。
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