福岡「親不孝通り」の喫茶店が40年続く理由 カフェチェーンの激戦地で提供する「価値」
夫婦が紡いできた人と人との“絆”の証
カフェチェーンが立ち並ぶ激戦地、福岡市・天神。その北部の「親富孝通り」で、40年続く喫茶店がある。「屋根裏 貘(ばく)」。オーナーの小田満さん(76)と妻律子さん(68)が、細々と営む昔ながらの店だ。開店当時、予備校の学生たちであふれた界隈も、今ではすっかりにぎわいが薄れてしまったが、店を訪れる客は後を絶たない。それは、夫婦が紡いできた人と人との“絆”の証だ。
通りは1970年代、近くの予備校に通う浪人生が多く歩いていたことから、「親不孝通り」と呼ばれた。予備校生ら若者目当ての飲食店が軒を連ね、80年代半ばにはディスコ、90年代にはライブハウスもできた。しかし、2000年代に入ると予備校も既に閉校して通りは衰退。愛称も地元では「親富孝通り」に改称されたが、元に戻すべきだという議論も起きている。
小田さん夫婦が店をオープンしたのは、ちょうど40年前、1976年12月24日のクリスマスイブだった。小さなビルの2階で、店舗面積は60平方メートル弱。狭い階段を上がると、細長のスペースにカウンター席とホール席がある。むき出しの梁(はり)や低い天井は店名通り、「屋根裏」のたたずまいを感じさせる。
ホールには宝箱を思わせる大きな木箱や古いピアノがあり、11時を差したまま止まった時計が薄明かりに淡く映えている。BGMは壁に染み込むようなジャズ。まるで店全体が骨董(こっとう)品のようで、その落ち着いた「昭和の薫り」が常連客に愛されている。