福岡「親不孝通り」の喫茶店が40年続く理由 カフェチェーンの激戦地で提供する「価値」

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妖怪絵師として知られる三日月電波さんが「屋根裏 貘」のために描き下ろしたというイラスト。夢を食うバクの妖怪が、震災を引き起こすナマズの化け物を退治する場面が描かれている

しかし、愛される秘密はそれだけではない。店内には8畳ほどの小さなギャラリーが併設されている。夫婦は開店時から芸術家志望の大学生らの個展を企画。絵画やデザイン、彫刻、空間アートのインスタレーション、写真などの作品展を月2回のペースで催し、これまでに出展者は延べ千人近く、来場者は40万人を優に超えるという。

「現代美術のギャラリーが福岡になかった時代。写真もまだ『アート』と認められず、みんな悶々としていた。彼らの斬新な感性が受け入れるまでは時間がかかった。段ボール箱に透明な樹脂シートを張って『水のないプール』と題した作品もあった。お客さん、不思議そうな顔して作品を眺めていたもんね」。満さんは、そう振り返る。

ギャラリー「アートスペース貘」。12月、九産大卒業生で、貘でアルバイト経験もある陶芸家前田尚子さんの作品が展示された

実は、この店は「2号店」なのだ。元祖の「喫茶店 貘」は72年、東区の九州産業大前にオープン。九産大芸術学部の学生や若手講師たちが詰め掛け、常連になった。店内で連日、彼らによる熱い芸術談議が繰り広げられるうち、2号店の開店を決意。律子さんが店主となり、彼らの発表の場を兼ねた店を開いたのだった。

その後、学生たちは九産大の教授や講師、高校の美術教師などの道へ進んだ。中には売れっ子作家として羽ばたいた卒業生もいる。人気写真家の荒木経惟氏に師事し、現在、女性写真家として活躍する野村佐紀子さんは学生時代、1号店でアルバイトをしながら、店での個展で腕を磨いた。ヒット作「給食番長」シリーズを手掛けた絵本作家よしながこうたくさんも“貘組”の一人だ。

「すごく昭和ですね」と言われて

ギャラリーでの個展を控えた写真家の男性(左)を交え、展示方法などを打ち合わせる小田夫妻

系列店は一時、4店舗まで増えたが、時代の波に押されて次第に減り、1号店を閉じた8年ほど前、「屋根裏 貘」のみとなった。この間、店の外の街並みも変わった。

「街は若者であふれ返っていた。予備校生たちは、うちのコーヒーとカレーで授業をさぼったり、持ち込んだ弁当を広げたり、ここで先生に進路相談をしたり。ディスコやバンドの人たちは来なかったけど、熱気は伝わった。でも、今はね……」

律子さんは、一杯立てのコーヒーを入れながらつぶやいた。

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