名門ワイン「RIDGE」と日本を結ぶ深すぎる縁

老舗カリフォルニアワインの奇跡の物語

米国の醸造家なら、誰もが目指すこの大学に英語がまだつたなかった彼が入れたのは、焼酎造りの経験を生かした醸造への思いを書きつづった論文が受け入れられたからだ。全米から秀才が集まる中、単純な成績だけではとても敵わなかったと石窪氏自身も認めている。彼が入学できたのは、UC Davisを受験したほかの学生にはない経験を彼が持っていたからだ。

しかし、米国人醸造家の誰もがあこがれるUC Davisを卒業できたからといって、RIDGEのような著名ワイナリーにポストが用意されるわけではないのだ。

そこでUC Davisを卒業後、1度回り道をした。カリフォルニアに宝酒造が建設した日本酒工場に就職。本格的にワイン造りに取り組む前に、発酵期間が長く発酵温度が低い――すなわち、腐造しやすく状態管理に注意を払わなければならない日本酒造りを経験しておきたいと考えたからだ。

そのうえで、さらに1本2ドル程度で販売される低価格ワインの醸造所で経験を積んだ。この醸造所ではクライアントが指定したアルコール度数、酸、タンニンなどのパラメーターどおりに作り、安価でなおかつ毎日のテーブルを飾るに相応しいだけの味を出していた。

多くのプライベートブランドが作られるこの工場で、石窪氏はコントロールされた味のワインがいかに作られるかを学んだ。ワインは今や、工場で品質管理され“スペックどおり”のワインを生み出せる時代。プレミアムなワインを生み出すには、もう一方の極端な技術も学ぶ必要があると考えたのである。

そんな石窪氏は現地で知り合った女性との結婚を機に、生活の拠点をシリコンバレーに移す。そして、そこから通勤できる距離にあるワイナリーに、片っ端から自分の履歴書を送り電話をかけまくったが、どのワイナリーも相手にしてくれない。

そんな中、彼を面白いと思ってくれたのが、かのポール・ドレーパー氏だった。名門RIDGEには、毎週、5~6通はワインメーカー志望の醸造家から履歴書が届き、売り込みの電話が入る。いずれも一流校を首席で卒業するようなトップクラスの秀才ばかりだ。

RIDGEでワインを作りたい人間はたくさんいる。が、そのポジションは限られている。もちろん、蔵人として下働きをしたり、ブドウ栽培の手伝いをする仕事ならいくらでもあるだろう。だが醸造家となると、RIDGEの場合は各ブドウ園ごとに醸造責任者がひとりずつ、その補佐をする人間がひとりずつ。ごくわずかなポジションしかない。

さらに、RIDGEはシリコンバレー・クパチーノを拠点にするワイナリーだが、この地域にはひとつしかブドウ園を所有しておらず、そのポジションは必然的に“2つ”に絞られる。石窪氏が醸造家としてRIDGEに参加できたのは運命としか言いようがない偶然が重なったからだった。ワインメーカーを補佐していた人物が引退し、その後釜を探していたまさにそのとき、彼の履歴書をドレーパー氏が見たのだ。

大塚ホールディングスとは「無関係」

全米からトップクラスの頭脳を持つ醸造家が集まる中で、日本人醸造家が採用された理由と大塚ホールディングスは無関係だ。なにしろ、この取材を終えた後、RIDGEを日本で販売する大塚食品社長の戸部貞信氏に尋ねたところ「RIDGEに日本人醸造家がいるなんて話、知らなかった。(写真を見せると)彼は日本人だったのか? 知らなかったよ」と驚いたほどだ。

RIDGEのワインは、特定の“決まった味”がない。造り出すワインのスペックを決めて醸造をするわけではないからである。経験を生かし、その年ごとに異なる条件の下、ブランドを裏打ちする一貫した味・風合いを維持するのがRIDGEのワインだ。

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