名門ワイン「RIDGE」と日本を結ぶ深すぎる縁 老舗カリフォルニアワインの奇跡の物語

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完全な自然発酵での醸造であることはもちろん、ブレンドもその年に合わせて変えていく、当然ながら、一貫性はあっても味わいそのものは毎年変化し、さまざまな“判断”基準が変化する。

たとえば、2011年は気温が上がらなかったため、果実は小さく糖分も低い。その結果、アルコール分は少なく、(種と皮の比率が多くなるため)タンニンが多めになる。

一方、2012年は大きな果実と高い糖度を反映し、タンニンが少なめでフルーティな味わい。天候がよくブドウの実がよく育ったのだ。

当然、そのままワインを造ったのであれば、その味わいは違ったものになる。そこで、そのときどきの気候で変化するブドウの実の様子を観察しながら、“RIDGEのMONTE BELLOとは”という哲学だけを守ってワイン造りが行われる。これがRIDGEのやり方だ。

理論上の効率や安定した味を求め、目標とする数値に近づける醸造ではなく、その年ごとに異なる気候と果実を感じながら、発酵具合やブレンドを幾度となく試飲を繰り返し、ワインメーカーの経験とカンによってブランドを生み出していくには、理論家よりも実践を通して「よりよいワイン」への着地点をしっかり見すえられる人物でなければならない。

いまだに「人間」に強く依存したワイン造りを続けるRIDGEの哲学と、石窪氏のパーソナリティや考えが一致したことが、採用の決め手となった。RIDGEではあらゆる決定を、ワインメーカーひとりではなく、補佐するワインメーカーや栽培家を含めた4~5人が合議で決めて行く。その中に日本酒や焼酎を造ってきた石窪氏の感性を取り込もうとしたのである。

ワイン作りで頻繁に行われる「添加」

MONTE BELLOブドウ園に実るカベルネ・ソービニヨン種(写真:筆者撮影)

実は近代のワイン造りにおいて、一定範囲の味を実現するための「添加」は頻繁に行われている。

たとえば、世界中の多くのワインブランドを保有する米Constellation Brandsは、傘下のワイナリーで生まれる大量のブドウの皮を煮詰め濃縮した添加物を、タンニンと糖の調整用に販売。同社の主要製品となっている。ブドウ由来の添加物は糖・タンニンともに添加とは見なされないため合法だからだ。樽由来のタンニンを添加し、特徴としているワイナリーも少なくない。

消費者がそのブランドに期待する味を、ヴィンテージを問わず安定して届ける技術もある意味重要と言えよう。しかし、その真逆の価値観でワインを生み出しているRIDGEにとっては、新しい価値観、考えを持ち込んでくれる異分子も必要だったのだろう。

8年間にわたってRIDGEのトップキュヴェを生み出す「MONTE BELLOブドウ園」で経験を積んだ石窪氏は、現在、MONTE BELLOのアソシエイトワインメーカーとして活躍している。そんな彼がRIDGEの中で信頼を獲得し、重要な役割を担い始めた頃、70年以上の時代を超えた数奇な日本との縁を知ることになる。

誰も――そう明彦氏やドレーパー氏さえも知らなかった、長澤鼎(かなえ)とRIDGEの物語である。

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