名門ワイン「RIDGE」と日本を結ぶ深すぎる縁

老舗カリフォルニアワインの奇跡の物語

そんな長澤がファウンテングローブで育てていたのは、フランスから持ち込み、改良を加えながら育てたカベルネ・ソービニヨンの樹だった。彼はこのブドウの樹を地道に改良し、カリフォルニアの風土に合った、病気に強い樹にすることでブドウ園を拡大していくことができたのだ。

そしてカリフォルニアの気候、風土にマッチしていたファウンテングローブの苗木が、禁酒法時代に荒れ果ててしまったRIDGEのMONTE BELLOブドウ園を救った。

今では山の頂から広がる、広大なMONTE BELLOブドウ園だが、1940年代、ウィリアム・ショートがこのワイナリーを入手したときには土地は荒れ、質の高いブドウを生産することはできなくなっていた。ショートはMONTE BELLOブドウ園の再興のため、新たに植えるブドウの苗木を探した。ところがこの頃、カリフォルニアではフィロキセラというブドウの樹が冒される病気がブドウ園に蔓延し、欧州品種の健康な苗木が入手困難だったのだ。

それでもあきらめずに奔走したショートは、ついにサンタローザの地で長澤が品種改良したファウンテングローブの苗木にたどり着く。時に1949年のことだ。その後、育った苗木がブドウ園を支え、世界中で広く知られているRIDGEの基礎となったのだ。

RIDGEという名前を冠するワイナリーが生まれたのは1962年のこと。山の山頂に近いエリアに広がるブドウ園では質のよい果実が採れるようになっていた。しかし、もし長澤鼎が生み出したファウンテングローブの樹がなければ、おそらくRIDGEは現在、残っていなかっただろう。

もっとも、時間の経過とともにそのことは忘れられていく。近代になり長澤の時代よりも改良された品種は収穫できる房の数も大幅に増えた。新たな樹への植え替えも進み、かつてRIDGEを救った長澤の樹も1000本を残すのみだった。

畑の特徴を生かしたワイン造りを指向し、シングルヴィンヤードでのワイン造りを行うRIDGEでは、この古い樹を充分に生かせる環境にはない。質のよいブドウを生み出していたものの、ファウンテングローブの樹は1本から生まれるブドウの収量も少なく、残った古木がその役目を終えるのは時間の問題だった。

そのとき、奇蹟が起きた

ところが、ファウンテングローブの樹がいよいよその役目を終えようとしたとき、奇蹟が起きた。

石窪氏がRIDGEの中で確たる足場を築いた後の2013年、ファウンテングローブのブドウが忘れられる頃、MONTE BELLOブドウ園はまれにみる豊作に恵まれ、ファウンテングローブの樹のみで造るキュヴェ(特別なロットのワイン)「RIDGE Monte Bello Historic Vines 2013」の醸造が決まったのである。

これがきっかけで眠っていたRIDGEと日本の深い絆、縁を、長澤と同郷の石窪氏が発見したのだから、これを運命と言わずしてなんと言おうか。しかも過去の文献によれば、長澤もまた石窪氏と同じく晩年にUC Davisでワイン醸造について学んでいたのだ。

久々に造られたファウンテングローブのブドウだけで作られた特別キュヴェは、最初のヴィンテージが今年、ワイン倶楽部会員のみに限定販売された。そしてこの出来事を機会に見直されたファウンテングローブの樹は、その後、4000本が植樹され5000まで増加。近く8000本まで増やす予定だ。

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