ニッポンブランド再生への処方箋 もう一度ブランドで勝負するために

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日本の製品は、高い品質を誇りながら、中国マーケットにうまく食い込めていない。その最大の理由は、ブランド戦略の甘さにある。この連載では、北京電通に7年駐在し、グローバル企業のブランド戦略のコンサルティングを手掛ける著者が、中国人の心を掴むためのブランド創りを解説。教科書的なブランド論ではなく、ビジネスの現場で起きている事実をベースに、実践的なブランド戦略を発信する。
どうすれば日本企業は、かつてのウォークマンのようなイノベーションを起こせるのか(写真:ロイター/アフロ)

ブランド強化の具体策を考える

カリフォルニア大学バークレー校のDavid A. Aaker名誉教授はブランド論の第一人者です。電通が2002年に顧問に迎えて以来、多くの広告マンが彼の理論を学び、薫陶を受けてきました。私もそのひとりです。Aakerさんと一緒にアジア各国でブランドセミナーを実施しながら、クライアントの役に立つ実戦的なブランド戦略を追究してきました。

ブランドは古くからある概念ですが、彼はそれをBrand IdentityやBrand Equityなどの切り口から理論化し、ブランド構築とマネジメントの方法論をモデル化しました。そのひとつが、「Brand Energizer」と彼が呼ぶブランド活性化の方法論です。私はそれを若干アレンジして、①商品、②広告・プロモーション、③スポンサーシップ、④シンボル、⑤プログラム、⑥語り部、⑦共感、⑧口コミ、⑨体験、⑩一体感――に分類しています。以下、順を追って説明します。

ブランド活性化手法その① ごきぶりホイホイの秘密

ブランド活性化の王道は製品やサービスのイノベーションです。「ウォークマン」は再生機能に特化した超小型携帯カセット音楽プレーヤーという新カテゴリーを築いて世界に通用するブランドとなり、企業ブランド「ソニー」のグローバル化にも貢献しました。ボーズ社は「アコースティック・ノイズキャンセリング」という画期的技術で外部ノイズを消去するヘッドフォンを開発して世間をあっと言わせ、ブランドへの絶対的信頼を勝ち得ました。おかげで、類似品が大手家電メーカーから発売されてもびくともしません。

日本の身近な例は、1973年に発売された「ごきぶりホイホイ」のイノベーションです。組み立て式の紙容器で捕獲したゴキブリを、容器ごと捨てられるという画期的メカニズムの新製品は大ヒットすると共にブランド化し、競合商品の追撃を退けました。同時に、事業不振で大塚グループ傘下に入っていたアース製薬の経営と企業ブランド再興の救世主となったのです。

しかし、技術的ブレークスルーは簡単ではありません。イノベーションを持たずとも製品やサービスをブランド化する方法はないのでしょうか? 有力な手段はデザインによるブランドイメージ構築です。デンマークのAV機器メーカー「Bang & Olufsen」の製品には、技術的な優位点はなくとも、他社にはまねできないシンプルでエレガントな北欧スタイルのデザイン、操作フィーリング、インテリア性が備わっていて、それがブランド力の源泉になっています。

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